ホヤの神経細胞の発生と機能に関する研究
神経細胞は情報を伝達することに特化した特別な細胞で、我々動物の行動や思考、生理などを制御しています。また神経細胞は情報を伝達するという特殊性から、神経細胞( neuron といいます)から軸索( axon といいます)をのばし、神経細胞同士、または筋肉などの他の細胞と結合( synapse といいます)しています。その神経細胞と他の細胞との接続は非常に複雑で、まさにネットワークのようになっています。そのような神経細胞がどのように発生し、ネットワークを作り、そして機能しているのかを理解することは、我々人間の高次の知能行動を含め、動物を理解する上で欠かせないテーマとなっています。しかしながら、人間を含めた脊椎動物の神経系は非常に多くの神経細胞からなっており、それを研究することは容易ではありません。
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ホヤは「脊椎動物に最も近い無脊椎動物」とされています。その幼生は典型的なオタマジャクシ型幼生で、魚や蛙のオタマジャクシによく似た形態を取っています。特に神経系は、背側に中枢神経を持ち、その前方部分がふくらみ、神経細胞が集合した「脳」と同様の構造になっています。さらに脳に近接する形で、重力を感知する平衡器と光を感知する眼点があります。つまりホヤ幼生は脊椎動物と相同な中枢神経系を持っているのです。その一方で、ホヤ幼生の神経系は非常に単純で、およそ 100 程度の神経細胞しかないことが分かっています。つまり、 100 の神経細胞について、どのように発生してくるのか、またどの細胞とシナプスを形成し接続しているのか、またどのような機能を持ち幼生の行動や生理現象を制御しているのか、を研究すれば、ホヤ幼生の神経系について一通りの理解ができることになります。
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また、ホヤ幼生の神経細胞には脊椎動物が持つ主要な種類の神経細胞が存在することが分かっています。例えばアセチルコリン、ドーパミン、 GABA 、グルタミン酸、ペプチド、といった神経伝達物質を放出する神経細胞が存在しています。
さらに、ホヤ幼生はこの単純な神経系を使って複雑な行動パターンを達成しています。例えば遊泳する際に、重力や光を感知しそれらの刺激に対して走性を示しますし、発生過程で体のつくりを大きく変化させる変態も神経細胞がその多くを制御しています。
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このように、単純ながら機能的なホヤ幼生の神経系は研究する上で大変魅力的な対象です。神経細胞について研究する際に、「神経細胞を特異的に光らせる」ことが非常に強力です。神経細胞は特殊な形態をしており、その細胞体や細い軸索を生きたままの状態で観察することが非常に困難なためです。我々の研究グループで開発したトランスポゾン Minos を用いたトランスジェニック系統作製により、ホヤ幼生の神経細胞を特異的に染色した系統が作られています。我々はこれらの系統を利用して、ホヤ幼生の神経細胞がどのように発生し、どのようなネットワークを形成し、どのように機能しているのかについて、分子生物学的手法を駆使して研究しています。
(参考文献)
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