B:「およそ6800万年前ごろのものです」
A:「『ごろ』というと,どのくらいの幅が?」
B:「そうですね,±100万年ぐらいでしょうか」
A:「そんなに誤差があるんですか?」
……というようなやりとりを,古生物関係者であれば,一度は経験されたことがあるのではないかと思います。もちろん,上のやりとりではBが古生物関係者です。Aはたとえば,我々のようなメディア関係者ですね。
ここで,久々のざっくり認識を。この一つさえ気をつけていれば,少なくとも記事を書く上では支障はないと思います。今回は……,
化石に年代(数値)は書かれていません
ということです。
正確にいえば,例外的に一部の化石� �分析をすることで年代値を出す事ができますが,ほとんどの化石は分析をしても年代を出す事はできません。
たとえば,恐竜とか,アンモナイトとか,三葉虫とか,アノマロカリスとか……,そんな化石が発見されたとしても,それを分析する事で,「○○○万年前の化石です」という答えは出ないのです。
biopdiversityを維持する理由
「○○○万年前」という数字は,基本的に放射性元素を使って測定します。「放射性元素」とはいきなり難しげな名称ですが,一定期間で減っていくものだと思ってください。
減っていくペースがわかっているので,これを使うことで,「○○○万年前」という「数字」が出ます。これを「絶対年代」といいます。
ところが,この放射性元素は,特定の地層や岩石,鉱物にしか入っていません。
化石がみつかった場合,近くにこの特定の地層があれば,絶対年代が出ます。
しかし,そう都合の良いことはなかなかありません。
どのように惑星は彼らの名前を取得しました
そこで研究者が使うのは,「生層序(せいそうじょ)」です。
「生層序」とは,何やら難しげな単語に聞こえますが,誤解を恐れずにいつものざっくり認識で言ってしまえば,「化石の出現する順番」だと思ってください。
たとえば,Aという化石とBという化石があって,Aの次にBが出現することがわかっていたとします。これが生層序。
すると,Cという新たな化石が発見されたとき,Aという化石がともに確認されれば,CはBよりも古いということになります。
逆に,このときCがBともに確認されれば,CはAよりも新しい。
複数のCが発見されて,Aとともに産出するC,Bと一緒に産出するCがあるというのあれば,CはAやBよりも"長生き"� �,A+Bの期間を"生き抜いた"ことになります。
化石でわかるのは,基本的にこうした新旧であり,それは相対的なものです。
たとえば「AはBよりも古く,Dよりは新しい」,「BはEよりも古い」などの積み重ねによって,生命史における順番がわかっています。
この例でいえば,古い方からD,A,B,Eの順番になります。
先日のブログ記事で紹介した地質年代表の時代区分(CambrianとかJurassicとか)は,こうした化石にもとづいて決められています。
ちなみに,時代を決めることのできる化石を「示準化石」といいます。
示準化石は,特定の時代の地層にしか産出しない化石です。
どのような種類は黒と灰色のヘビです。
こうして「AはBよりも~」といったように化石を重ねていくと,まれに年代が求められる地層や岩石が"出現"することがあります。上の例でいえば,たとえば化石Bを含む地層とそれよりも新しい化石Eを含む地層の間に,火山灰層などの年代測定のできる地層がはさまれている場合があるのです。
すると,Bを含む地層とEを含む地層の間の年代値が出てきます。たとえば,これを8000万年前としましょう。
同じように,Dと含む地層とAを含む地層の間に,9000万年前と年代値のわかるものがあったとします。
この例では,古い方からD,A,B,Eの順番なので,AとBの年代は,9000万年前~8000万年前とわかるわけです。
しかし,それ以上はわか� ��ません。ひょっとしたら,
・A:9000万年前~8500万年前,B:8500万年前~8000万年前
かもしれませんし,
・A:9000万年前~8800万年前,B:8800万年前~8000万年前
かもしれないのです。
研究が進んでいる場所では,示準化石によってその地層がいつの時代のものかわかっている場合があります。
たとえば,この地層は白亜紀後期のものであるとか,あるいは古第三紀始新世のものであるとか(実際には,もっと細かな時代まで決まっていることが多いです)。
すると新たに発見した化石も時代を決められることが多いのです。
新たに化石を発見したとき,これは白亜紀後期のチューロニアン(チューロニアンはTuronianと書きます。これも先日のブログ参照)という時代のものであるとか,そういうことは研究者にはわかります。これまでの研究からチューロニアンは9300万年前~8900万年前とわかっています。
こうして新たに発見された化石は,「9300万年前~8900万年前のもの」とされるわけです。厳密に,この400万年間のいつのものなのかは,この場合はわかりません。
私が記事を書くときは,こうした範囲をもった書き方をすることが多いのですが,いかんせん文字数を喰います。
そこで,間をとって,「9100万年前ごろの化石」と書くケースが出てきくるわけです。
化石が発見されたときに使 われる「年代値の幅」や「ごろ」の表現はこうして生まれます。
いずれにしろ,正確な記事を書きたい,あるいは正確なことを知っていたいというのであれば,取材時には年代ではなく,時代をまずは尋ねるべきでしょう。
あー,長い記事になってしまいました(;^_^A
もともと私は生層序屋さんの端くれだったので,ちょっと熱くなってしまいました(反省)。
ともあれ,ざっくりポイントは
・化石でわかるのは,時代
・時代は新旧という相対的なもの
・時代と年代は別物
の3点です。メディア関係者のみなさま,ご注意を。
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