なぜ筋肉注射でアドレナリンを投与するか
知っていますか?
WFでは筋肉注射よりもさらに即効性の
ある舌下部注射にて対応しております。
30年現在毎年の実習を繰り返しておりますが、
一例もアナフィラキシーや神経反応の
事例を起こさずにいます。
これは事前の審査が大きく貢献していると
判断しております。
救急外来などでしばしば遭遇するアナフィラキシーは、対応を誤ると命にかかわることもあり、その病態や初期治療についての知識は、医師にとって必須と言えます。
アナフィラキシーになってから心臓が止まってしまうまでの平均時間は、薬剤投与などの医原性の場合は5分、ハチなどの毒の場合は15分、食べ物の場合は30分という報告もあり、早期のアドレナリン(エピネフリン)投与が何よりも重要です。そのアドレナリン、通常は筋肉注射により投与されますが、そもそもなぜ皮下注射ではいけないのでしょうか? アナフィラキシーにおける2相性の反応とはどのようなもので、どうすれば防げるのでしょうか?
臨床講座「非専門医のためのリウマチ・アレルギー診療Update」では、こうしたアナフィラキシーに関する素朴な疑問について、聖路加国際病院アレルギー膠原病科の田巻弘道氏らが、図表を交えながら分かりやすく解説します。
◆【臨床講座】非専門医のためのリウマチ・アレルギー診療Update
アナフィラキシーにアドレナリン皮下注ではなぜダメなの?
田巻弘道、岸本暢将、岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科〔成人、小児〕)
研修医 先生、最近お見かけしませんでしたね。
指導医 ニューオリンズで開かれたAmerican Academy of Allergy, Asthma, and Immunology(AAAAI、クアトロエイアイ)の学会に参加してきたんです。ニューオリンズには食事も含めて独自の文化があり、いろいろと楽しめました。ニューオーリンズセインツという地元のアメリカンフットボールのチームが、今年のスーパーボウルで優勝したので、セインツのグッズがたくさん売られていました。とはいえ、学会のセッションにほぼ出っぱなしだったので、あまり観光はできませんでしたが・・・。AAAAIでは、アレルギーの様々な新しい情報を得て今までの知識を整理することができて、とても有意義な時間を過ごせました。
研修医 アレルギーといえば、この間、救急外来でアナフィラキシーの方を診察したんです。救急外来がすごく混んでいて、その患者さんはタクシーで来たためにしばらく外で待たされていて、アドレナリン(エピネフリン)の投与が遅れたのでどうしようかと思いました。
火炎伝播速度は何ですか?
指導医 それは大変でしたね。アドレナリンは早く投与すればするほど、その後の予後が良いといわれていますからね。ある研究では、アナフィラキシーになってから心臓が止まってしまうまでの平均時間は、薬剤投与などの医原性の場合は5分、ハチなどの毒の場合は15分、食べ物の場合は30分という報告もあります。アドレナリンをより早く投与した方が2相性の反応が起こる確率も減るという報告もありますからね。
研修医 2相性の反応ってなんですか?
指導医 アナフィラキシーの症状が治療で落ちついた後に、時間をあけて再度アナフィラキシーの症状が出てくることがあるんです。たいていは最初の反応から8時間以内に起きてきますが、最大72時間という報告もあります。最初の症状が落ち着いただけで安心せずに、その後もしっかりと患者さんの様子を見ることが大切ということです。ところで、なぜ筋肉注射でアドレナリンを投与するか知っていますか?
研修医 簡単にすぐに投与できるからです。
指導医 そうですね。すぐに投与することの重要性は、アナフィラキシーから心停止までの時間の短さからも明白です。では、皮下注射ではダメな理由は分かりますか?
研修医 うーん。
指導医 アドレナリンの血中濃度が最高値に達するのは、皮下注射だと34分後、筋肉注射だと8分後といわれています。骨格筋は血流も豊富ですし、生理学的にもアドレナリンによって皮下の血管は収縮しますが、逆に骨格筋の血管は拡張し吸収が早くなります。先ほどのアナフィラキシーから心臓が止まるまでの時間ということからみても、筋肉注射の方が早く血中濃度の上昇が得られるのでより適しているわけです。
研修医 なるほど。
指導医 AAAAIの学会では、今度World Allergy Organizationから出る予定になっているガイドラインについても少し触れられていましたが、AAAAIからも2005年にガイドラインが出ています。アナフィラキシーの初期薬物治療は、先生がご存じの通り、アドレナリンです。ガイドラインなので「そのエビデンスは?」ということになりますが、疾患の性質上、倫理的にRandomized Control Trialを行うことは難しいですよね。そういった意味での厳密なエビデンスはありませんが、誰もが認める第1選択薬です(表1) 。
表1 アドレナリンの薬理作用
場所の気候に影響を与える3つの要素は何ですか?
α1受容体 | β1受容体 | β2受容体 |
血管収縮↑/血管抵抗↑ | 心拍数↑ | メディエーターの放出↓ |
(大抵の臓器システムで) | 心収縮力↑ | 気管支拡張↑ |
血圧↑ | 血管拡張↑ | |
粘膜浮腫(喉頭)↓ |
指導医 そのほかに、初期治療ではどういったことに気を付ければいいですか?
研修医 やっぱり、緊急時だからBasic Life Supportに沿ったABC(Airway, Breathing, Circulation)ですよね。
指導医 そうですね。第一段階の処置としては、助けを呼ぶこと、しっかりとABCを確認すること、1:1000のアドレナリンを0.01mg/kg(最大0.5mg)筋肉注射で投与すること、14〜16ゲージの太い針でしっかりと血管確保をし、大量補液をすること、バイタルサインをモニターすること、酸素6〜8L/分をマスクで投与すること、仰向けに寝かせて、下肢を挙上すること、などです(図1)。
研修医 H1ブロッカーやステロイドについてはどうですか?
指導医 H1ブロッカー、H2ブロッカー、ステロイド、β2刺激薬の吸入はどれもRandomized Control Trialがあるものではないですが、第一段階の処置の後に行われます。
ステロイドに関しては、2相性の反応を抑えると理論的には思われがちですが、これまでの報告ではステロイドの投与は2相性反応の出現率に影響を与えていません。ですから、ステロイドを投与したからといって、数時間の観察をせずに返していいということには全くなりません。
図1アナフィラキシーの初期処置
投与薬剤 | 投与量、投与部位 |
アドレナリン | 大人:0.3mg〜0.5mg(1000倍希釈で0.3〜0.5mL)を大腿前外側(外側広筋)に筋注 小児:0.01mg/kg 最大0.3mg 5〜15分ごとに必要に応じて繰り返す |
抗ヒスタミン薬* | 経静脈投与 H1:ジフェンヒドラミン 20〜40mg (小児1mg/kg) H2:ラニチジン 50mg(小児1mg/kg) 遷移元素は何ですか |
副腎皮質ステロイド | 経静脈的 メチルプレドニゾロン 1〜2mg/kg/日 6時間ごとに分割して |
吸入β2刺激薬 | 硫酸サルブタモール 大人:2.5mg吸入 小児:0.5〜1.5mg吸入 |
研修医 なるほど。アナフィラキシーの定義は、即時型のアレルギーで多臓器に症状が出るということですが、実際はどのような症状が多いのですか?
指導医 皮膚症状が一番多いですが、その次に呼吸器症状、循環器症状と続きます。消化器症状も出てきます(表2)。
表2 アナフィラキシー症状の頻度
皮膚症状 | 90% |
蕁麻疹 | 85〜90% |
紅潮 | 45〜55% |
皮疹のないそう痒感 | 2〜5% |
呼吸器症状 | 40〜60% |
呼吸困難、喘鳴 | 45〜50% |
上気道浮腫 | 50〜60% |
鼻炎 | 15〜20% |
めまい、低血圧 | 30〜35% |
嘔気、嘔吐、下痢、腹痛 | 25〜30% |
頭痛 | 5〜8% |
胸痛 | 4〜6% |
痙攣 | 1〜2% |
研修医 消化器症状から始まるような場合もあるのですね。幸いこの間の救急外来の患者さんは、アドレナリンの治療に反応し、特に問題なく帰って行きました。
指導医 アナフィラキシーの初期治療はとても大切ですが、その後のケアもとても重要です。まずは原因を特定すること(表3)、さらには患者教育も大切です。原因を避けてアナフィラキシーを再度起こさないようにすること、また、アナフィラキシーが起きた時の対処法をしっかりと学んでもらう必要があります。どんな症状が出るのかといったことや、アドレナリンの自己注射の方法などがその内容です。
表3 アナフィラキシー(広義)の機序と誘因
免疫学的機序(IgEによるもの)(狭義) |
食べ物(ピーナッツ、ナッツ類、魚介類、牛乳、卵、ごま、食品添加物など) 薬物(βラクタム系抗菌薬、生物学的製剤) 毒(ハチなど) 天然ラテックス 職業アレルゲン 精液 吸入抗原(馬、ハムスターなど動物のふけ、花粉(まれ)) (造影剤) |
免疫学的機序 (IgE非依存性、以前はアナフィラクトイド反応と呼ばれていたもの) |
デキストラン(高分子鉄デキストランなど) 造影剤 |
NSAIDs |
非免疫学的機序 |
身体的要因(運動、寒冷、温熱、太陽光/紫外線など) エタノール 薬物(オピオイドなど) |
特発性アナフィラキシー |
隠れたまたは以前に指摘されていないアレルゲンの可能性を考慮すること Mastocytosis/clonal mast cell disorderの可能性について考慮すること |
研修医 はい。そう思って、先生の明日の外来の予約をとっておきました。
指導医 ずいぶん手回しがいいですね。では、しっかりと原因検索を行うことにしましょう。ところで、AAAAIのセッションでは、アドレナリンにもバソプレッシンにも抵抗性のアナフィラキシーがあった場合に、メチレンブルーを使用して効果があったという症例報告を紹介していました。こんなケースには出合わないことを願いたいものです。ともあれ、今年に出るというガイドラインを楽しみにしていましょう。
【参考文献】
1) F. Estelle R. Simons. Anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol 2010;125:S161-81
2) F. Estelle R. Simons. Anaphylaxis: Recent advances in assessments and treatment. J Allergy Clin Immunol 2009; 124:625-36
3) Lieberman P et al. The diagnosis and management of anaphylaxis: an updated practice parameter. J Allergy Clin Immunol 2005;115(suppl):S485-523.
4) Sampson HA et al. Second symposium on the definition and management of anaphylaxis:summary report-Second National Institute of Allergy and Infectious Disease/Food Allergy and Anaphylaxis Network symposium. J Allergy Clin Immunol 2006;117:391-7.5)Phil Lieberman. Biphasic anaphylactic reactions. Ann Allergy Asthma Immunol. 2005;95:217?226.
5)岡田正人 レジデントのためのアレルギー疾患診察マニュアル 医学書院
6) Del Duca, D et al. Use of methylene blue for catecholamine-refractory vasoplegia from protamine and aprotinin. Ann Thorac Surg 2009;87:640-642
2011年10月 提供:日経メディカルオンライン
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