2012年4月20日金曜日

サルにも色盲がある


ヒトの色盲と視物質遺伝子の話

 ヒトを含む旧世界霊長類は約4000万年前に赤、緑視物質遺伝子の重複が起こり、青視物質遺伝子とあわせて3種類の視物質遺伝子が誕生しました。ヒト視物質遺伝子の解析によれば、L(赤)およびM(緑)視物質遺伝子は相同性が高く、364個のアミノ酸配列のうち15個のアミノ酸が違うだけです。L、M視物質遺伝子はともにX染色体上にL、Mの順にタンデムに並んで配列します(図1)。約6割のヒトがM視物質遺伝子を2個以上持つタンデムリピート構造を持ちますが、最初の2つのいずれかが転写されるので、正常色覚となります。L、またはM視物質遺伝子の欠損による色盲は、ヒト男性の約2%存在しますが、これはL、M視物質遺伝子のこのような構造に起因し、減数分裂時に不等交差が生じ視物質遺伝子の欠損が起こるためと考えら� ��ます。この場合の色盲(色覚異常)は、赤視物質の欠損(第一色覚異常)または緑視物質の欠損(第二色覚異常)です。さらに、不等交差や遺伝子変換により、MとL視物質遺伝子のハイブリッドができ、その転移部位に視物質の吸収波長特性に作用する遺伝子部分が含まれると、色盲や色弱を引き起こします。一方、S(青)視物質遺伝子は7番目の常染色体にあり、その欠損(第三色覚異常)はまれです。錐体を全く持たない一色性色覚異常(全色盲)も存在しますが非常にまれです。

 ヒトではこのように、色盲・色弱の頻度は高いのですが、ヒト以外のアジア・アフリカの霊長類では、色盲、色弱がヒト以外の旧世界霊長類に存在する証拠は1998年まで得られませんでした。De Valoisらは、旧世界ザルで色盲が見つかれば、ヒトの色覚の進化の問題を解くカギが得られるであろうと述べた後、彼らが調べた15頭のマカカ属サルに色覚異常はなかったと書いています(De Valoisら、Vision Res. 14, 53-67, 1974)。最近ではJacobsらが類人猿を含む104頭の旧世界霊長類の網膜電図(ERG)を用いて調べ、色覚異常は見つからなかったと報告しています(Jacobs and WIlliams, Col. Res. Appl. 26, S123-S127, 2001)。


図1 ヒト、チンパンジー、サルのL、M視物質遺伝子の配列


A. 正常色覚。aはオス、bはメスの場合。B. 多コピーを持つが最初の2つが転写されるため正常色覚(ヒトでは66%、カニクイザルでは5%、チンパンジーでは6.9%)。C. aはハイブリッド遺伝子の吸収波長がMに近く実質的はL欠損に相当する色弱、西アフリカから来たチンパンジーの「ラッキー」はこのタイプ。bとcはハイブリッド遺伝子の吸収波長がLに近いため実質てきはM欠損に相当する色弱。D. aはMを欠損する色盲、bはLを欠損する色盲。インドネシアのパンガンダランで発見した色盲カニクイザルはこのタイプ。

旧世界ザルで色盲を探す

 我々は、1997年に生理学研究所、基礎生物学研究所、霊長類研究所の共同研究プロジェクトとして、色盲のサルを探す試みを開始しました。この時点では、オナガザル科のサルや類人猿に色盲、色弱の個体の報告はありませんでしたが、それまでの研究では調べた個体の総数が少なかったので、見つかっていないのはそのためとも考えられました。テストした個体数が少なかった理由の1つは、行動実験、分光分析、ERGを用いる方法では1頭調べるのに相当の期間と手間を要することによります。一方、1980年代後半からヒトを対象に研究の進んだ遺伝子レベルの研究は、血液サンプルを用いるため比較的短期間に多数のサンプルを調べられる利点があります。そこで我々は、まず遺伝子解析から始めることにしました。


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 プロジェクトの開始当初はヒトと同じ程度の出現頻度を予測していたため、霊長類研究所保有の約700頭のマカカ属サルから発見できるものと考えていました。しかし、霊長類研究所保有のサルから視物質の異常は見つからず、筑波霊長類センターをはじめとする日本国内の入手可能なマカカ属の血液サンプルの解析を進めました。しかし、日本国内でも見つからず、霊長類研究所の竹中修がタイおよびインドネシアで採取したマカカ属サルの血液サンプルの解析も行いました。

カニクイザルの視物質遺伝子の解析

 大西ら(文献1、文献3)は主に東南アジアおよび日本に生息する19種のマカカ属のサル合計2788頭(オス1092頭・メス1696)のゲノムDNAサンプルに関して遺伝子レベルの解析を行いました。まずサンプル数の一番多かったカニクイザルより、遺伝子をクローニングし、その構造をヒトと比較しました。その結果、カニクイザルのLおよびM遺伝子はヒトと同じく6つのエクソンで構成され、タンデムリピート構造を取る事が分かりました。この結果は、マカカ属のサルでもヒトと同じく不等交差による視物質遺伝子の欠損や、不等交差や遺伝子変換によるハイブリッド遺伝子の出現する可能性を示しています。

 この結果を受け、さらに遺伝子レベルの解析を行った結果、霊長類研究所の竹中、後藤がサンプルしたカニクイザル血液から、エクソン1から4までがL視物質遺伝子の配列を、エクソン5と6がM視物質遺伝子の配列を取るハイブリッド視物質(4L5M)を1つだけ持つカニクイザル・オスが3頭みつかりました。また、この4L5M視物質を培養細胞に発現させ、吸収極大波長を測定した結果、4L5M視物質はM視物質の吸収極大波長より長波長側に6nmシフトするものの、ほとんどM視物質と差がありませんでした。この結果から、これら3頭は短波長(S)視物質とほぼ中波長(M)に吸収極大を持つハイブリッド視物質による2色型であり、その遺伝子型はヒトで言うL視物質欠損型の第一色覚異常であることが分かりました。この遺伝子型の出現頻度は、 我々が調べたオスのカニクイザルのサンプルで計算すると約0.4%であした。

 上記の3頭は、すべてインドネシア、ジャワ島、パンガンダランのカニクイザルでした。パンガンダランには各群約30-40頭の8つの群が確認されています。そこで、この地区のカニクイザルで再度捕獲調査を実施しました。その結果、4L5Mを持つ個体がオス5頭、メス10頭みつかりました。これらのサルは3つの隣接する群に限局していました。オス・アダルトのカニクイザルは群を出て移動することが知られているので、4L5Mの遺伝子型は3つの群のいずれかから出て伝播した可能性が示唆されます。

 ところで、色盲の遺伝子型は不等交差による遺伝子の欠損に起因します。不等交差により遺伝子欠損が起こるとき遺伝子の増加も起こります。そのため、ヒト男性では66%がM視物質遺伝子を多コピー持ちます。そこでカニクイザル・オスの130サンプルについて調べたところ、6サンプルがM視物質遺伝子を多コピー持っていました。これらはすべてタイ南部のヤラとソンクラのサンプルであった。カニクイザルにおける多コピーの出現頻度(5%)はヒトと比較して低かった。

ハイブリッド視物質遺伝子を持つ個体の色覚

 分子遺伝学的手法により、ハイブリッド視物質遺伝子を持つと判定されたオスのカニクイザル(2色型)は、L視物質遺伝子を欠損しているので、網膜にもL錐体が存在せず、赤色に対する感度が正常個体(3色型)よりも低いことが予測されました。そこで、花澤ら(文献2)は網膜電図(ERG)によって網膜の赤と緑に対する相対感度を測定し、この点を検討しました。テスト光には、525nm(緑)および644nm(赤)の発光ダイオードを用い、30Hzの逆位相でフリッカー呈示しました。相対感度は、赤または緑の輝度を固定し他方の輝度を変化させる方法で、ERG応答の最も小さくなる輝度比からを求めました。


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 3色型では、緑と赤の輝度比が1:1のときにERG応答が最小となり、L、M両方の錐体が平等に存在することが示されました。一方、ハイブリッド視物質遺伝子4L5Mのみを持つ2色型では赤に対する感度は緑の4分の1であった(図4)。X染色体の1つがL, M、もう1つが4L5Mの視物質遺伝子をもつヘテロ型のメスでは赤に対する感度は緑の2分の1でした。これらの結果は、4L5Mのみを持つオスは、その網膜にL錐体が存在せず、表現型においても2色型であり、2色性の色覚を持つ可能性が高いことを示しました。一方、ヘテロ型の網膜にはL錐体が存在するが、その数は3色型よりも少ないと推定されました。このように、遺伝子型と網膜の赤、緑に対する感度は良好な対応関係を示しました。

色盲ザルの行動学的判定

 さらに、知覚レベルの解析により表現型を確認するため、三上ら(文献4)は2色型と3色型のサルで、石原式色覚テスト票を模して作成した図形の弁別テストを行いました。訓練用の図形として、 背景は明るい緑、リングは暗い赤茶で描いた 刺激( P100 )を用意した。この図形は色盲にも識別できる図形です。つぎに、ヒト第1色覚異常の混同色を用いて作成した刺激(E0)を用意した。この図形は、背景は明るさ3段階の緑、リングは明るさ2段階の赤茶(肌色)で構成し、明るさの配置が手がかりとならないように各色をモザイク状に配置しました。これらの中間の条件としてP100とE0の条件を一定の比率で混合し、E50、E25、E12の刺激を用意しました。これらのテスト図形がヒトの第1色覚異常検出に有効であることを確認するための予備実験を行い、色盲・色弱の被験者でE12、E0条件でリングのパターンが見えないことを確認しました。

 サルにはリングの描かれた図とリングの描かれていない図を同時に呈示し、リングの描かれた図を選択すると正解として報酬を与えました。まず、訓練図形(P100)、ついで基準図形(E50)を用い、1ブロック20試行、1日2ブロックの訓練を行い、正答率80%以上のブロックが5回連続したとき訓練を終了しました。テスト・セッションでは1ブロック中、E50を17回、E25を1回、E12を1回、E0を1回呈示しました。各個体22ブロック以上テストした結果、3色型は、E25、E12、E0ともに好成績であったが、2色型個体はE12、E0で成績が有意に低下しました。これら一連の結果は、ハイブリッドの視物質遺伝子1個を持つオスのカニクイザルが、ヒトの第1色覚異常と相同の視覚特性を持つことを示しました。

ヒト以外の旧世界霊長類ではなぜ色盲・色弱が少ないか

 その後、チンパンジーでも色弱個体を発見し行動などの詳細な解析を行いました(文献5)。一連の研究の結果、我々のサンプルで計算した色盲、色弱の出現頻度はカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%とヒトに比較して圧倒的に少ないことが分かりました。ヒト以外の旧世界霊長類で色盲、色弱が少ない理由のひとつとして考えられているのが、淘汰圧の問題です。色盲・色弱の個体は熟した赤い実や新芽を緑の葉の間で見つけるのが困難であり、自然の環境では不利であるという解釈です(Tan and Li, Nature 402, 36, 1999)。確かに、我々が行った検査でも、色盲ザルは彼らが生息しているパンガンダランにありサルの餌場となっているBuni(Antidesma bunius, Bignay)の木の実の識別ができませんでした (文献4)。ヒトで色盲、色弱の出現頻度が高い理由も、現在人は自然の中で木の実を素早く見つけることで生き延びる生活とは無縁であり、最早淘汰圧とはならないと説明されます。しかし、前述のように自然界には色以外にも様々な手がかりがあり、色盲、色弱でも日常生活には適応可能と見ることもできます。パンガンダランで我々が色盲と同定したサルの何頭かは高齢になるまで生き延びたサルであり、また、オスザルの1頭はその群れのアルファー・メール(ボスザル)であったことを考えると、色盲、色弱が淘汰圧になるとする見方は単純すぎるように思います。


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 我々の調査結果では、色覚には直接影響せず淘汰圧にはならないはずのM視物質遺伝子を多コピー持つ個体がカニクイザルでもチンパンジーでも圧倒的に少数でした。この事実も、カニクイザル、チンパンジーとヒトとの相違は、単純に淘汰圧では説明できないことを示しています。淘汰圧以外の要因として考えられるのは、カニクイザルやヒトへの進化の過程で少数の集団から急速に拡大した時期があり、その集団が持っていた遺伝子構成の特徴が引き継がれたとする「瓶首効果」説です。そのほか、サルや類人猿では、群れのサイズが小さく、移動範囲も狭いこと、さらには、イントロン部分の遺伝子構造の違いなどの要因の可能性も考慮する必要があります。

<関連発表>

1. Onishi, A., Koike, S., Ida, M., Imai, H., Shichida, Y., Takenaka, O., Hanazawa, A., Komatsu, H., Mikami, A., Goto, S., Bambang, S., Kitahara, K., Yamamori, T. (1999) Finding of dichromatic macaque monkeys. Nature 402, 139-140.

2. Hanazawa, A., Mikami, A., Angelika, P. S., Takenaka, O., Goto, S., Onishi, A., Koike, S., Yamamori, T., Kato., K., Kondo, A., Suryobroto, B., Farajallah, A., (2001) Electroretinogram analysis of relative spectral sensitivity in genetically identified dichromatic macaques. PNAS, 98, 8124-8127.

3. Onishi, A., Koike, S., Ida-Hosonuma, M., Imai, H., Shichida, Y., Takenaka, O., Hanazawa, A., Komatsu, H., Mikami, A., Goto, S., Suryobroto, B., Farajallah, A., Varavudhi, P., Eakavhibata, C., Kitahara, K., Yamamori, T. (2002) Variations in long-wavelength-sensitive and middle-wavelength-sensitive opsin gene loci in crab-eating monkeys. Vision Res. 42, 281-292.

4. 2001年日本神経科学会発表

5.Saito, A., Mikami, A., Kawamura, S., Ueno, Y., Hiramatsu, C., Widayati, K. A., Suryobroto, B., Teramoto, M., Mori, Y., Nagano, K., Fujita, K., Kuroshima, H., Hasegawa, T., Advantage of Dichromats Over Trichromats in Discrimination of Color-Camouflaged Stimuli in Non-Human Primates. Am. J. Primatol. 67, 425-436, 2005. [要約]

6. Saito, A., Kawamura, S., Mikami, A., Ueno, Y., Hiramatsu, C., Koida, K., Fujita, K., Kuroshima, H., Hasegawa, T., Demonstration of Genotype-Phenotype Correlation in Polymorphic Color Vision of a Non-Callitrichine New World Monkey, Capuchin Cebus apella. Am. J. Primatol. 67, 471-485, 2005. [要約])

7. Saito, A., Mikami, A., Hosokawa, T. and Hasegawa, T. Advantage of dichromats over trichromats in discrimination of color-camouflaged stimuli in humans. Percept. Motor Skill. (in press)

8. Saito, A. Mikami, A., Hasegawa, T., Terao, K., Koike, S., Onish A., Takeneka, O., Teramoto, M. and Mori, Y. (2003) The behavioral evidence of the color vision deficiency in a protanomalia chimpanzee (Pan troglodytes). Primates, 44, 171-176.

7. Terao K, Mikami A, Saito A, Ito S, Ogawa H, Takenaka O, Sakai T, Onishi A, Teramoto M, Udono T, Emi Y, Kobayashi H, Imai H, Shichid Y, Koike S., Identification of a protanomalous chimpanzee by molecular genetic and electroretinogram analyses. Vision Res. 45, 1225-1235, 2005. [要約]

<謝辞>

 このページで紹介した色盲ザルの研究は、平成11-13年度科学研究費補助金、基盤研究(A)(2)課題番号11691189、平成14-16年度科学研究費補助金、基盤研究(B)(2)課題番号14405018の支援を受けて行われました。また、以下にあげる多くの研究室の研究者の協力で行われました。


 共同研究者名:竹中修、後藤俊二、松村秀一、加藤啓一郎、近藤彩(京都大・霊長研)、大西暁士、今井啓雄、七田芳則(京都大・理)、寺尾健一、小池 智、細沼(井田)美樹(東京都神経研)、花沢明俊(九州工大)、小松英彦、鯉田孝和(生理研)、山森哲雄(基生研)、Bambang Suryobroto, Dyah Perwitasari Farajalah, Puti Angelica, Arpan Jayadi  Kanthi Arum Widayati, Islamul Hadi, Achmad Farajallah, (インドネシア、ボゴール農大)、斎藤慈子、長谷川寿一(東京大・総合文化)、寺尾恵治(筑波霊長類センター)、北原健二(慈恵医大)、伊藤真一、小川 尚(熊本大・医)、寺本 研、鵜殿俊史、江見美子、小林久雄、森 裕介 (三和化学研究所・熊本霊長類パーク)、Puttipongse Varavudhi, Charal Eakavhibata、Suchinda Malaivijitmond  (タイ、チュラロンコン大学)

付]「色盲」という表現について

「色盲」という表現は差別用語であるという見方があり、その代わりに「色覚異常」という表現が使われることがあります。このホームページでも、これまで色覚異常と表現してきました。しかし、「色盲」を持つ研究者から色覚が「異常」という表現は適当ではない「色盲」の方が良いという指摘がありました。「色盲」は病気ではなく、視物質遺伝子の変異によって特定の色味(正確には周波数帯域)に感受性のある視物質を欠損していることによって生じるというのがその理由です。「色盲」の他に、2色型色覚という表現もありますが、専門的で一般には馴染みのない表現です。そこで、ここでは「色盲」と表現することにしました。

付]色盲のヒトに見やすいプレゼンテーションのすすめ

 日本人男性の20人に1人は赤緑色盲または赤緑色弱です。この頻度は、日本人のAB型の血液型の頻度(10%)の約半分です。さらに、アメリカ人の場合は赤緑色盲・色弱の出現頻度は約8%で、AB型の頻度(3%)よりも高くなります。従って、多数の人に何かをプレゼンテーションするとき、聴衆の中に色盲の人がいることを前提とすべきです。赤緑の色の組み合わせや暗い背景に赤の文字などの表示は赤緑色盲では非常に見にくくなります。また、赤いレーザー・ポインターなども見にくくなります。

 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法は、岡部正隆(国立遺伝学研究所)と 伊藤啓(東京大学分子細胞生物学研究所、国立基礎生物学研究所)によって提案されています。詳細は以下のホームページをごらんください。

 また上記サイトにも紹介されていますが、3色型の色覚を持った人が2色型色覚を経験することのできるシミレーション・ソフトが以下のサイトにあります。お試しください。

 かつて、医学部や工学部の一部では正常色覚を持つことが入学の条件でした。この条件がはずされたのは1960年代後半になってからです。私の友人の中にも工学部の志望をあきらめて文学部へ進んだ友人がいます。この規則が適用されていた頃、色盲・色弱注)はいくつかの職種では不都合であると考えられていました。例えば、医療の現場では色の識別ができないと内科や皮膚科の診療で皮膚の色の変化が見えないとか、外科で動脈と静脈の区別がつかないという主張がありました。しかし、実世界では色覚検査票のように純粋に色味だけが異なるような視覚環境は殆どありません。色の違いとともに、明るさの違い、3次元的な構造が作り出す形や凸凹の違い、対象の動きの違いなど様々な手掛かりがあります。例えば、動� ��と静脈では、明るさも表面の性状の違いに伴う輝きも違う、さらに大きな動脈は拍動が見え、触れば拍動を触覚で確かめることもできます。色は確かに目立っており、役にたちます。しかし、視覚情報には色以外にいろいろな手掛かりがあり、色が見えなくても日常生活に適応可能です。従って、色盲を排除する理由はないという考え方が次第に主流となり、今では入学時点で正常色覚を条件としている大学はありません。

更新履歴:2006.3.7文献追加



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