■[旅行]新感覚劇「スリープ・ノー・モア」の衝撃――廃墟ホテルで役者とゼロ距離で「マクベス」!
Twitter(といってもあまり呟いていない)では少し書いたが、NYに行ってきた。とはいえ、大人になってから年に2回海外にいくのが当たり前になったので、記載していない旅行/出張も多いが。NYに対しては実は大して思い入れはなく、それが何か書こうと思う気力に繋がっているのは不思議な事だ。私は初めて行った都市でもあるロンドンが大好きで、ロンドンを歩いていると人生の幸福をひしひしと噛締めるのに精一杯で、日記どころではない。NY街歩きでは殺されないように身を守るほうが先決で(移民文化は大好きなので、誤解しないで欲しいが、私は飛行機も苦手の大の怖がり)、結果残された部分が際立つのかもしれない。とにかく、普段は引き篭もりな私がこれだけ旅行しているということも、大して好きでない都市につ� �ては色々と書けるということも、すべて私の中では理屈に適っている。
さて、そんな中でもTwitterで自分がフォローしているアメリカのセレブリティたちが盛り上がっていた「Sleep No More」だけは、NYで絶対にしたいこと、として出国前から大いに期待していた。
New York Postなどによると、Trey Parker(サウス・パークの), Kim Cattrall(SATCの、2名ともブロードウェイで仕事してたが), Kevin Spacey, James Franco(言わずと知れた)、 Amy Adams(魔法にかけられて等。マペッツ公開まだ?)、Justin Timberlake、Cate Blanchettなどなどのセレブリティも観劇を楽しみ、またオフィシャルサイトのゲストブック(ホテルという設定)にもDita Von Teese(マリマン元妻)、Olivia Wilde(トロンとか)、Neil Patrick Harris(HIMYM、トニー賞2011司会)、Anderson Cooper(司会者)、Elijah Wood(指輪物語シリーズの)からのコメントもある。NPH曰く、「Saw Sleep No More tonight. 1 of the single greatest things I've EVER seen. Immersive theatre on a whole other level. www.sleepnomorenyc.com-Neil Patrick Harris(Sleep No Moreを今晩見たよ。今まで見たものの中で単体として最も素晴らしいものの一つだった。全く別のレベルでどっぷり浸かりこめる劇だ)」とかなんとか。私が本当に興味を持ったのはTIME 2011 TOP 10で5位にランクインした時だったが。
とはいえ、一番の目的が舞台鑑賞だったため、20:00台の公演は別のチケットとの兼ね合いで見れなかった。結果として、23時からのチケットで3時間……終了は朝の2時という公演に行く事になった。NYで。その時、死んでも仕方がないと腹だけは括ったのは言うまでもない(怖がり)。
思うに、「観賞」のスタイルは完全に二極化している。一つはTVや映画館から垂れ流しにされる情報に無選択に寄り添う人のためのものだ。大抵は映像の形を取って現れるが、症状が悪化すると、自由に散策できるのがウリのはずのインターネットでもAKBのメンバーのブログのチェックやmixiの農場の手入れに忙しくなる。もう一つはマニアックでお金もかかり、映像みたいに気軽に毎日見ることもできないが、探し当てたときの喜びが倍増するナマモノの鑑賞だ。。しかもナマ鑑賞のスタイルはさらに進化している。最早観客は怠惰にまかせるがままクッションのきいた席に身を沈める事すら許されない!殺人が起これば捜査し、閉じ込められれば脱出する……そうじゃないか?実際私はその手のイベントに参加していて、� ��出ゲームや謎解きゲームに頻繁に出没している。アメリカのボックスオフィスの売り上げでは、一人当たりの単価がIMAXと3Dで16年前よりも倍増したのに、16年ぶりの低水準の売り上げで終わってしまった。打って変わってウエスト・エンドもブロードウェイも、劇場の売り上げは好調だ。2011年のトニー賞を受賞した4つの作品(ミュージカル作品賞、ミュージカルリバイバル作品賞、演劇作品賞、演劇リバイバル賞)のうち、ミュージカルリバイバルのAnything Goesを除いた3つ(The Book Of Mormon, War Horse aka 戦火の馬、そしてThe Normal Heart)はすべて映画化される。その他にも、レ・ミゼラブルを筆頭とした数え切れないくらいのミュージカル作品の映画化が待っている。
Sleep No Moreに関するレビュー(特に日本語)を読んでいると、ネタばれを知らない方が良いだろうから、読むな、というレビューも多いけれど、私の感想は、ある程度ネタばれを知っていた方が良いというものだった(私が怖がりなこともある)。一応「マクベス」である以上、誰が「マクベス」「レディ・マクベス」なのかを知っているのといないのでは、大きく感想が異なると思う。"Sleep no more, Macbeth has murdered sleep!"のシーンは、NY滞在期間に見た計9公演の中でもとりわけ印象的なハイライトだった。
というわけで、以下は、1.行く前に知りたい情報(見どころ、キャラクター、本当に怖いのか?、周辺の治安、チケットの取り方、1人で行った場合/2人以上で行った場合)について、2.ネタばれ実際に行ってみた感想、の2つに分けて記載したいと思う。
1.行く前に知りたい情報
(1)見どころ
カブトガニはどのように大きいです
Sleep No Moreを知らない人、行くかどうか決めそびれている人がいれば、個人的には猛烈にオススメしたい。少なくとも月1回くらいは舞台に足を運ぶ生活が、もう何年も続いているけれど、新鮮な驚きがあった。「参加型」の演劇、とは聞いていたけど、こんなネタバレが許されるのであれば、私が評価する点は、実はパフォーマンスの9割が……「ダンス」だってことだ。そして私はダンスの熱狂的なファンである。結構日本語の感想では「役者」「役者」と言われているが彼らは(パンフレットにも記載があるが)プロのダンサーである。もちろん、ダンスに興味がない人も、きっと楽しめる。ちなみに、台詞はほとんどない。
(2)キャラクター
個人的な印象だが、キャラクターは知っていったほうが良い。10人くらいいるので、良くわからないキャラを追いかけると、マクベス夫妻を3周目まで見ないで終わることもありえる。原作で中心となるプロットを追いたい人は、マクベス夫妻とダンカン、バンクォーくらいは押さえておいた方が良い。特に、重要な事件が起こるマクベス夫妻の寝室はWSJの記事のトップの写真でも見れるのだけど、知っておいて損はない。お風呂もあって、階は3階。原作は、短いので頑張って読もう。私は、光文社新訳文庫のものを買った。
(3)本当に怖いのか?
他に、日本語の感想でよく言われている「お化け屋敷」。歩いて回るお化け屋敷には行ったことがなく、ホラー映画も家ですら見れず、ディズニーのホーンテッドマンションですら、墓の後ろから出てくる死体が苦手。つまり、ビックリするのが嫌いな私なのだが、たしかにおどろおどろしい美術品で溢れかえっている"マクキトリック・ホテル"(映画ヒッチコックの「めまい」から)は、特段私を驚かそうという意図は感じられない。こっちが勝手にビックリしているだけである。一番ビックリしたのは、別の階に役者を追いかけ、新しい階に入るとき、数メートルばかり暗い迷路のようになっていて、そこに稲川淳二ライトを従えたマリア像がいた時である。マリア様に「ひぃっ」っとなる不謹慎な体験をしてしまったが、淳二� ��マリアはありとあらゆるところにいるので、次第に慣れていった。とはいえ、このビビリ性が災いし、降ろされたのが3階だったため、おそらく6階などは殆ど探検していないと言ってもよい。0〜1階は吹き抜け形式のダンスホールであるため、あまり怖いものはない。なお、観客が最初に通されるのは2階のバー(ジャズを演奏している)で、階は0〜6階の計7階。詳細はファンが作っているガイドのWikiでも確認できる。
(4)周辺の治安
ところで、周辺の治安についてだが、チェルシー地区は、元々クラブが多く、夜でも人出はある。ホテルの出口には何十人と観客がおり、タクシーを捕まえにメイン通りに出ると、あなたとタクシーを捕まえる競争をするたくさんの外国人がいる筈だ。私は結局色々あってタクシーを捕まえるときには一人だったが、何の恐怖も感じなかった。とはいえ、この劇のジャズバーでピアノを演奏している日本人の方のブログでは、周りを歩いていてお金をせびられたという記載があるから、安心はしないほうがよいだろう。
(5)チケットの取り方
チケットについて、1ヶ月先の公演でも売り切れのこともある。15分刻みでチケットを売っているが、探索の時間が長いか短いかだけで、劇は同じ時間に開始し、同じ時間に終わる。探索が短くても問題はないと思うが、いくつかの部屋は何分も見ていて飽きない芸術品となっているので、好きな人は早めに行こう。ちなみに、劇は、調べればわかることだが、同じ劇を3回上演する。入場前にクロークの利用が必須なため、まずそこで時間を食う。難しいかもしれないが、水分補給もトイレも両方きちっとやっておこう。クロークから出るときには何十ドルか持っておくと、バーでお酒を買えるが、お酒が弱い私はお水をもっと飲んでくるべきだった。3時間階段を上って降りて走って役者を追いかけるのだ!のどが渇いて、三周目� �はきれいかは分からない噴水の水を手で掬って飲んでいた(笑)。そんなことをしている人は周りにはいなかったけど。なおどの部屋にも黒い仮面をつけたスタッフがおり、Too muchと感じたらいつでも申告して2階に戻ったり、出たりできるらしい。
ちなみに、私はチケットが取れなかった。ので、よくよくみると公式サイトに書いてあるFor inquiries regarding access to evenings that are sold out on our calendar email: premiumaccesにメールをして162.5ドルでプレミアムチケットを買った。正直、そんなに高い金額ではない、来日公演などは暴利だから。時差の関係でメールは1日1通となってしまうため、最後には電話して取った。AMEXやVISAで決済できる。プレミアムだと15分刻みに関わらず、並ばず優先入場できる。チケットはなくても名前を言えばよい(入り口の人がPDAを持っていて調べてくれる)。その後クロークの列も無視して裏側から荷物を預けてよい。クローク利用代も取られない。
(6)1人で行った場合/2人以上で言った場合
ザリガニの内部解剖学は何ですか?
そう、「仮面」。この劇では観客は白い仮面をつける。鼻が低い日本人には息苦しい。しかしこれが観客側からエスニシティを取り除き、いつもと違う演劇体験をもたらす。仮面をつけていない人は、役者。役者を見つけると、異様に興奮して、思わず追いかけてしまう。最初はこの仮面にギョッとするので怖いのではないかと思っていたが、むしろ仮面を見ると「仲間だ」とすぐ安心するようになる。どうせ何百人もいるので怖がることはない。厄介なのは2人以上で行った場合だ。確実にはぐれる。そもそも最初から、配られたトランプの数字を元に入場するように言われるし(無視してもよい。特にチェックはない)、また最初に乗るエレベーターでは高層階から数人ずつ降ろされていくので、余程ピッタリくっついていないとこ の場ではぐれる。その他はぐれるチャンスは山ほどある。手をつないでいるとその分、役者の方を見失うだろう。だから、気になる役者を絶対に追いかける方を選ぶか、マクキトリック・ホテルの外でも一緒にいることができる連れと、仮面を被りながらもはぐれないようにするという無理ゲーを楽しむかは、そう難しい問題じゃない。それでも手を取り合っている仲むつまじい友人やカップルもいる。ちなみに、そんなカップルの無理ゲー難易度促進のために(?)、会話は禁止されている。
2.実際に行ってみた感想(ネタばれ)
騙されて買ったパンフレットに、「ヌーヴェルヴァーグの音楽にインスピレーションを受けた」という製作者のインタビューが載っていた。ここでは書いても伝わらない最大の魅力は、音楽だ。何も起こらない、廃墟の探検から、ほら、ストーリーが語られるよ、と誘ってくれるのは音楽だった。気がついたら、目の前に小間使いのような格好をした金髪の女性が立っていた。目の周りを黒くアイラインが縁取り、小奇麗なメイド服と、反抗的な目つきのギャップがすごい。彼女は、手紙をバスタブのふちにかけて、私を睨み付けた。私のことは、見えていないのではないのか……?体がすくんでいるうちに、彼女はどこかに行ってしまった。慌てて追いかける。最初に一人で探検したお墓を通っていく。怖いから、絶対に役者とはは� ��れたくなかった。彼女は、ミニチュアの墓標の十字をポキッと追っていった。やっぱり、怖い人だ。階を下りて、調度品の設えられた、豪華な寝室に着くと、なにやら写真立てを見つめる彼女。子供だ。きつい印象の表情が、ふと和らいでいる。きっと、彼女自身が感情を押し殺していたに違いないのに。
掃除をしていると、主が帰ってきた。これは後にわかったのだが、ダンカンであった。ダンカンと踊るメイド。寝室で、ソファに腰掛けていた観客もいたが、今はそこはダンスステージと化していた。さっきまで、自分が座っていたところに、演者がいる不思議な感動。ダンカンは酔っているようで、メイドを誑かしながら、寝てしまう。メイドは心の奥底では、ダンカンを馬鹿にしているようであった。キスされた唇を、汚いもののように袖で拭い去る。
そのまま彼女を追って、2階へ下る。そこには男性がおり、彼を見て彼女は激怒する。ドアを取り外し、彼に襲い掛かるように……踊る。この「ドアのパ・ド・ドゥ」でまた度肝を抜かれた。ドアの上半分は、窓ガラスのない、格子だけになっており、そこから腕を出してリフトしたかと思うと、メイドが男性に襲い掛かるように、ドアの上にのしかかる。男性は、ドアを押し返すと廊下の端まで十メートルは移動する。振付は、音楽にピッタリと合っていて、とてもレベルが高く、しかも見たことがないようなものだ。そのたびに、マスクを付けた観客は、邪魔にならないよう移動する。目の前の光景に圧倒されつつも、このときは、15人くらいしか観客がおらず、不安でもあった。何が面白いことなのか、よくわかっていなかった� �何階あるのかもわからないビルで、他の階に行くのは怖いし、役者と一緒に移動したい。しかし、他にもっと面白いことがあるから、ここには15人くらいしかいないのかもしれない。ところが実際、3周目でもう一度このPDDの脇を通りがかった時は、50人ばかしの溢れんばかり人であった。その時、1周目、少ない人数のおかげで、近くでその演技を見ることができたことに感謝したが、後からだから言えることである。
そこで、今度は男性を追っていくことにした。イケメンだが、何をそんなに恨まれているのだろうか。彼はグラスからウィスキーを飲み(本物かどうかは知らない、のどが渇いた男性がそれを普通に飲んでいて、微妙に劇の妨げになっていた、引き出しも、壁の絵も、全て触ってよいことになっているので)、女性と落ち合った。妊婦だ!ということは、彼はマクダフだ。妊婦なのに、マクダフ夫人も踊る、踊る。ソファを2つ飛ぶように行き来するPDDも面白かったが、本棚の上と天井の間、1・5メートルくらいの幅で踊るのも面白かった。本棚の上で人が踊るのを見たことがあるか?……自分でも思っても見なかったが、意外にもそんなものが私が見てみたくて仕方ないものだった。潜在的欲望ってやつだ。そして見たいなら、Sleep No Moreに行くしかない。
に、しても、マクダフ、妊婦と結婚しているのに、メイドに怒られていた……メイドは、子供の写真や、ぬいぐるみなんかに愛着を示していたぞ。そしてマクダフとメイドは喧嘩をしていた。このイケメン、悪い男の予感がする。
何がジョルジュ·ルメートルの宇宙の卵理論を行った
さて、彼女たちはコートを着て、おめかしをし始めた。マクダフは汗だくのシャツを脱いで、着替えた。そして0階のダンスホールへ。こんなに役者がいたんだ!2人1組でダンスを踊っている。黒人もいるぞ。男性同士のペアもあるけれど、難易度の高いリフトを軽々とこなしていて、ダンスの決闘みたいだ。他の人と同じ振付でも、違って見える。妊婦のマクダフ夫人は、少し踊ったけど、大事を取って端へ(とはいえ周りに仮面の観客が何十人といる)。私も気になるので近くへ。女性と踊るマクダフに、あまりいい顔をしてはいない。のどが渇いて、ダンカンのメイドから飲み物を受け取って飲んだ……と、案の定、すぐにクラクラと来て、最終的には私のほうにバターン!と倒れこんできた。思わず手が出てしまった。それ� ��ころか、白人の男性は、一応ルールを守りながら、それなりに介抱までしていた。頭を高くしようとすると、起き上がりたそうなそぶりだったので、彼が助けて起こした。もちろん、お礼とかはない。具合が悪いから帰るわ……といったそぶりで、コートを着込む夫人。ドリンクのお盆を持ったメイドが、アイラインに囲まれた、冷ややかな視線を夫人に送ったのを私は見てしまった。絶対犯人おまえだよ! しかし、周りの人は夫人が倒れたことすら知らない人もいるだろう。メザニン階から見ているひともいるし……
これで1周終了。
1周が終了した時点で、少し焦り始めた。マクベスを見に来たのに、マクベスが誰だかも判ってなかったのだ。やはり事前の下調べは大事で、Yelpで読んだ、3時間で同じ劇が3周するという情報、そして日本のブログ経由でみたベッドで踊るマクベス夫妻の写真、これは本当に役に立った。あのベッドは最初にメイドが手紙を置いていったバスタブがある部屋だ。しかも50平米はある、かなりの広さの部屋。周りがお墓に囲まれていたけど、もうあまり怖くなかった。怖いものが散在しているけど、驚かそうという意図はない。気を強く持つのだ。
色々と散策して回りながら、バスタブの部屋にたどり着くと、外から見て分かるくらい、大勢の人がマクベス夫妻を凝視していた。この人がマクベス!正直見た目はラスプーチンみたいだった。顎鬚があったからだ。2人は壁際に置かれた箱の段差を利用して、おたがいを投げあうように踊っていて、何段か積み重なった木箱の上で、マクベスの腕に夫人は臆することなく飛び込んでいく。振付としてもかなりの難易度だったと思うが、二人の投げやりな熱情をひしひしと感じた。夫人はありがたいことに写真で見たのと同じ青いネグリジェだった。ようやく話の確信に近づいた! しばらくすると、マクベスはどこかへ行ってしまったが、私は夫人のファンになってしまい、彼女を見ていることにした。そう時を待たずして、その瞬� ��は来た。鐘の音が響いたのだ! 原作を読んでいる人には、すぐにわかるだろう。夫人は、明白に取り乱し始めた。期待による狂乱と、恐怖による戦慄が、入り混じっている感じだ。2つの出入り口があるこの部屋で、彼は階段から続く入り口を通って現れた。両手が肘まで血でべっとりと汚れている。部屋を埋め尽くす観客は、入り口の前にも立ちはだかっていたが、ぎょっとして道を空けた。そこに、彼を追って下階から上がってきた仮面たちが流れ込んでくる。マクベス夫人は、慌てながらも、夫の顔をなで、彼を落ち着かせ、服を脱がせ(そう、この劇にはポロリもあるよ!)、バスタブの中につからせて、血を洗い流した。服を着替えさせ、眠りについたが、やがてマクベスは起き上がってどこかへ行き、婦人はバスタブを掃� �したあと、着替えて4階へと向かった。バスタブの足元には、メイドが置いた手紙が落ちており、水で滲んでいたけれど、自由に読むことができ、回し読み状態になっていた。うん、筆記体で3枚も書いてあるから私は読めなかったけどね!!
4階で夫人はなにやら演説を始め、狂気をありのままに発露し始めた。観客にいきなり、「あんた、今しゃべったでしょう!何を言ったの!」とたてつく場面も見られた(本当に喋っていたかどうかは知らない)。そこでまた、一度はぐれたマクベスと再会。マクベスはまだ取り乱している。その後、0階に降りる。今度はダンスホールでダンスパーティーではなく、最後の晩餐のような食卓で、彼らの食事(スローモーションで逆光でよく見えない)を見る。そこで乱入者があり、一団は解散した。原作の運びから、乱入者の目星はついていたが、確信はできなかった。
2周目終了。
3周目、私はマクベスを追うことにした。顎鬚の殺人者を見逃さないよう、しっかりと見つめていた。彼は、ダンスホールの脇によけてあったクリスマス・ツリーのようなものをダンスホールの中心に押し戻していた。気持ちが悪いほど、地面に這うように、ゆっくりと、ゆっくりと……暗くて、彼も観客も、ほとんど見えない。ゴキブリのような所作から、髭も確認できず、これがマクベスなのか、数分間疑い続けた。その後ようやく、食卓の向こうから一筋差す、痛いほどの光のなかに、彼は立って姿を現した。そして周りの森を見渡した。怒っているのが、こちらにも伝わる。観客は20人くらい。彼が私を見ている。私はてっきり、私の後ろからさす光源を見ているのだと思って、後ろを振り向いて確認した。そしてマクベスの� �を向き直った時、マクベスは駆け出して私の目の前まで来たと思うと、肩をひっつかみ、口を私の右耳に当て、抑制された、しかし激憤に満ち満ちた声で、「Thou'lt be afraid to hear it. My name's Macbeth!」と囁いて走り去っていった! 他の人は何を言っているのか解らなかっただろう。しかし、森が動いたことを知り、全てを悟ったマクベスの咆哮を、私だけが知ることが出来た。こういった一回性が、最高に面白いと感じた。
マクベスを追ってはみたものの、しばらくすると一度見た夫人とのダンスになってしまった。大体、10分は時間があると感じたので(時計は持っていなかった、後悔した、携帯でもいいから持って行こう)、別の階を探索したりしていた(しかし、日本に帰ってから見てみると、5,6階はほとんど行った記憶がない。3人の魔女がマクベスを誑かすのは5階で行われていたらしいが、私は最後まで魔女がいたのかどうかすら解っていなかった)。
4階などでは一応、ダンスが行われているが、彼らが誰なのかも、よく解らなかった。どのみち、話の本質から逸れている気もしたので、2階をうろちょろしていると、ダンカンが、最初にメイドとキスをしていた豪華な寝室の横にある小さな帳で眠るところだった。ちなみに、その時ダンカンがダンカンだという確証は、7割くらいで、一番年長の役者で、かつメイドがいることくらいしか根拠はなかった。
帳の横には手水用のボウルが置いてあり、のどが渇いた私はそのボウルの脇に立って、水をいじくっていたが、暗くてよく見えなかったけれど中に綿のようなものが入っていたので、触るのをやめた。と、そこにまさに偶然に、狂気に取り付かれた目をし、足元も覚束ないマクベスが乱入してきた。帳を囲む人々を押し分けて、ダンカンの体に覆いかぶさると、クッションを使って窒息死させた。マクベスは3回の殺人を行うのだが、3周目にしてようやく人を殺しているところに立ち会えた。ちなみに、帳の中に座って休んでいた人たちもいたので、思いがけない近距離で人殺しを目撃することになった。と、そこで鐘の音が鳴り響き、マクベスは立ち上がり再び私の傍――にある手水のボウルへと立ち寄り、ボウルの水で手を洗っ� ��。とはいえ、実はこれが、2周目で見た彼の手を覆う血の正体。暗くて見えなかったが、あの水は全て血のりであり、彼は自身の洗ったはずの手が血でべっとりと汚れているのをみて半狂乱に陥り、レディ・マクベスの元へと逃げ帰ってゆく。そこからは、2周目で見たお風呂での洗い流し(……ポロリもあるよ!)のシーンの通り。ダンカンの死体がどうなるのかも知りたかったが、とりあえずマクベスを追い、その後は2周目で見たところなので別の階を散策していた。
そこでまたも偶然、マクベスが誰かと喧嘩をしている場所に居合わせた。男性同士の、ビリヤード台を囲んでのダンス。繰り返されるリフト、バーカウンターやビリヤード台を活用しての、上下の移動が面白い。格闘するかのような、激しいPDDの末、バーカウンターの向こうで、レンガで殴り殺される男性。その時、彼がバンクォーだと確定した。
マクベスを追っていくと、これも2周目で見た、狂ったマクベス夫人とマクベスの再会へ。ここで、また別の部屋の散策などをしていたが、殺されたバンクォーの亡霊(原作通りの展開)が「マクベース!」と大絶叫しながら私の横を通り抜けていった。そして、またしても0階の「最後の晩餐」へ。乱入した男性がバンクォーだと確信し、また私の目前で殺されたダンカンもいたことから、このバックステージも舞台袖もない劇では、死者は亡霊として再び動き出すのだと推察した。そこで、この劇のすべての結末が、ようやく提示され、人々は、退場を促された。正直、時間もなにもかもわからなくなっていて、ダンスパーティーを2回、最後の晩餐を2回しかみていないことから、2周目なのか、3周目なのかもその時にはわか� ��なくなっていた。
そして観客はまた、2階のジャズ・バーに戻る。ジャズを楽しんでもいいし、帰ってもよい、という感じになっている。
結末は示されるものの、私は3回目の殺人を見逃してしまったり、魔女の存在をはじめとした半分以上の登場人物が誰なのかよくわからないままに終わってしまった。リピートの多いショーだというのも頷ける。そこで(再度言うが)騙されて、20ドルでパンフレットを買ってみたけれど、部屋の地図などは載っておらず、単にマクベスの系列のことだけのプロットが書いてある。そこで、マクベスの3つ目の殺人(ネタバレすると…)を知ったりもしたが、高層階のことは、よくわからなかった。
読めなかった手紙、探検できなかった部屋のことも悔いが残るが、3階にあった、鏡の中だけ異世界の子供部屋(鏡の中では、ベッドが血まみれ)の美術は、これもヒッチコックの「サイコ」を元にしているようだけど、特に役者がベッドに座っているときは、「どうなってるの?」という感じで、一つの現代美術として成立していた。鏡に役者も映っているし、血まみれのシーツも映っている、不思議。
若い芸術家がホテルを改装したそうだけど、この試みは元々ロンドンでPunchdrunkがはじめたもの。今回で3ヶ所目の上演となる。私のロンドン・アンテナの鋭敏さには自分でも驚きたくなるが、わくわくするような仕掛けがいっぱい施されたハード面も十分に楽しんだ。
ただ、それ以上に、木箱やビリヤード台や身長ほどある本棚の上の狭いスペースで人々が踊る、という、夢と現実の狭間にある、奇妙なリアリティの芳しさ。そこに響く、古く懐かしい映画音楽の轟き。そんな組み合わせを、知りもしなかったのに、ずっと求めていたかのように錯覚する、フルコースのような芸術体験の美味。
たらふく堪能し、それでも言葉にできなくて、「スリープ・ノー・モア美味しすぎる!!」としかいえなくなってしまったので、体験したものをそのまんま書いてみました。
極度の退屈は、究極の体験を志向させるのです。
久しぶりに日記(?)でした。本年もよろしくお願いします。
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