2 GHS分類関係
Q.2-1 GHSではどのような危険有害性について分類をするのですか。
A.
以下の危険有害性が分類対象となり、そのための判定基準があります。
物理化学的危険性
火薬類、可燃性/引火性ガス、可燃性/引火性エアゾール、支燃性/酸化性ガス、高圧ガス、引火性液体、 可燃性固体、自己反応性化学品、自然発火性液体、自然発火性固体、自己発熱性化学品、水反応可燃性化学品、 酸化性液体、酸化性固体、有機過酸化物、金属腐食性物質
健康有害性
急性毒性、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器または皮膚感作性、 生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性(単回曝露)、特定標的臓器毒性(反復曝露)、 吸引性呼吸器有害性
環境有害性
水生環境有害性(急性、慢性)
Q.2-2 分類作業はどのように始めればよいでしょうか。
A.
まず、取り扱っている全ての化学品をリストアップし、 GHSで定義している危険有害性に該当するかどうかを判定するための一覧表を作成することをお勧めします。 最初にこれまで国内法を順守するために収集した情報を一覧表に記載すれば、 GHS分類のための情報の過不足が明らかになるでしょう。 最終的には取り扱っている全ての化学品について分類を行う必要がありますが、 危険有害性の重篤度や取扱量を勘案して、優先順位をつけて分類作業を行えばよいでしょう。
混合物では、混合物としてのデータがない場合、成分物質ごとのGHS分類結果を一覧にしてみると、 混合物としての評価がやりやすくなるでしょう。
表 物質Aの危険有害性一覧例
危険有害性 | 分類区分 | シンボル | 注意喚起語 | 危険有害性情報 | 注意書き | 参照文献 |
---|---|---|---|---|---|---|
火薬類 | 分類対象外 | − | − | − | − | − |
可燃性ガス | 分類対象外 | − | − | − | − | − |
引火性液体 | 区分2 | 炎 | 危険 | 引火性の高い液体 | (省略) | 国連危険物輸送勧告 |
・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ |
表 混合物成分のGHS分類結果(有害性)一覧例
成分 | 含有量 [%] | 急性毒性 (経口) | 皮膚腐食性・刺激性 | 眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性 | 呼吸器感作性 | ・・・・・ |
---|---|---|---|---|---|---|
物質A | 12 | 区分外 | 分類できない | 分類できない | 分類できない | ・・・・・ |
物質B | 8 | 区分5 | 区分2 | 区分2 | 分類できない | ・・・・・ |
・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ |
Q.2-3 分類マニュアル及び分類のための技術指針とは何ですか。
A.
国が行った分類は、安衛法の施行日(2006年12月1日)を目途に行われたこともあり、 短期間でしかも専門家による分類結果の相違を出来るだけ少なくするという事に主眼が置かれました。 この目的のために作成されたのが分類マニュアル及び分類のための技術指針です。 そのため、参照すべき文献に優先順位をつけ、 国際的な機関や国の機関から出されているものを主として使用するようにしています。 原則的に一次文献と呼ばれる科学雑誌等に掲載された論文は参照する必要は無いとされています。 また、GHS文書でも明確に示されておらず分類を行う上に困るであろうと思われる点については、 詳細な基準を定めています。
Q.2-4 危険有害性の区分が該当しない場合、 「分類対象外」、「区分外」、「分類できない」の別があるようですが、これらの違いを教えてください。
A.
「分類対象外」はGHSで定義されている危険有害性の対象にならない、 すなわち分類作業を行う必要の無い場合に使用しています。 例えば、製品が固体の場合、「引火性液体」の判定をする必要はありません。
「区分外」は、ある危険有害性について分類した結果、どの区分にも該当しない場合に使用しています。 例えば、ある製品の急性毒性推定値LD50が20000mg/kgの場合、急性毒性のどの区分にも該当しません。
「分類できない」は、ある危険有害性を分類しようとした場合、 それに関するデータが入手できないあるいはデータが不十分で分類できない場合に使用しています。
Q.2-5 GHS分類をするための既存データはどのように収集するのですか。 また、データがない場合の分類はどうすればよいですか。
A.
危険有害性についてのデータを収集することは、経験がなければそう簡単ではありません。 化学物質によっては、どれを採用すればよいかわからないほど非常に多くのデータあり、 また、データが全く見つからないものもあるでしょう。
物理化学的な危険性については、例えば国連危険物輸送勧告(UNRTDG)で約3000の物質がリストアップされていて、 これは世界的に使用されていますので、そのまま引用してもよいでしょう。 健康影響については、GHS関係省庁連絡会議で分類した結果が参考になるでしょうが、 現在のところ約1400物質に限られています(国内規制物質の分類例ですので、 この結果に従う必要はありません。 自社のデータあるいは他の文献等のデータによる分類結果を使用してかまいません。)。 これらのほかにも多くのデータソースがありますので、 具体的な文献名は「分類マニュアル」等を参考にするか、インターネット上で検索するなどしてください。
また、健康有害性に関してはGHSでは分類のために試験等により新たにデータを取ることは求めていません。 入手可能なデータにより分類すればよいことになっています。 GHSが定義する危険有害性に該当するデータがない場合には、 データがなく分類できない旨の記述をすることになっています。(GHS文書1.1.2.5 (b))
しかしこれはGHSにおける一般的な決まりなので、国内法等で新規物質の試験によるデータが求められている場合などは、 当然国内法が優先されます。
なお、物理的危険性については基本的に試験によりデータを取ることが推奨されています。
Q.2-6 国が行ったGHS分類以外に、化学物質のGHS分類結果を入手できるサイトがあったら教えてください。
A.
世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)および国際労働機関(ILO)の共同事業である国際化学物質安全性計画(IPCS)では、 欧州委員会(EC)の協力の下に、国際化学物質安全性カード(ICSC)を作成しています。 ICSCでは、数年前よりGHS対応を進めており、2007年8月現在、約100物質についてのGHS分類結果を、 ラベル、注意喚起語ならびに危険有害性情報として提示しており、随時追加されています。 下記のサイトより入手できます。
Q.2-7 分類は誰が行うのですか。また、その責任は誰にありますか。
A.
実際の分類は社内で行う場合も、外注などする場合も考えられます。 ラベルやSDSに記載される危険有害性情報に関する責任は化学品の供給者(製造者、販売者、輸入業者など)にあります。 したがって分類結果についての責任も供給者にあります。
Q.2-8 特定標的臓器有害性(Specific Target Organ Toxicity)にはどのようなものが含まれますか。
A.
特定標的臓器毒性というのは、たとえば神経毒性、免疫毒性、肝毒性など、別途に定義されている健康有害性 (急性毒性、皮膚腐食性/皮膚刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器感作性または皮膚感作性、 生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性、吸引性呼吸器有害性)の範疇に入らないものです。(GHS文書3.8.1、3.9.1)
単回曝露は一回の投与あるいは曝露で現れる毒性、反復曝露は複数回の投与あるいは曝露で現れる毒性を考えています。
Q.2-9 混合物の分類について基本的に留意すべき事項について教えてください。
A.
物理化学的危険性については基本的に混合物としてのデータを取るよう推奨されています。
健康影響有害性と環境有害性については、 1)混合物自体として分類に使用可能なデータがある場合は単一物質と同様に判定する、 2)つなぎの原則が適用可能な場合は適用する、 3)成分物質の有害性情報と含有量から混合物の毒性を一定の方法で判定する、 といった方法が示されていますので、1)〜3)の順序で適用の可否を検討し、分類判定をすることになります。
osmosesは何ですか
また、3)については、有害性の種類によって、 イ)加算式(additivity formula)を用いた計算による判定、 ロ)合計含有量による判定 (該当する成分の合計濃度で判定する方法で、 英文ではsummation methodと呼ばれており、単純加算法あるいは加成方式と訳されている)、 ハ)カットオフ値/濃度限界との比較による判定、といった方法があります。 この内、イ)の加算式は急性毒性や水生環境有害性(急性)に、 ロ)の該当成分の合計濃度で判定する方法(単純加算法)は皮膚腐食性/刺激性及び眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 (強酸・強アルカリなどで加成性が適用できない場合を除く)、吸引性呼吸器有害性、水生環境有害性(急性毒性)に使用されます。 また、ハ)のカットオフ値/濃度限界との比較は、発がん性等、上記以外の健康影響に適用されるもので、 当該作用を有する個々の成分について含有濃度を基準値と比較し、 該当する成分に基準値以上含まれているものがあれば分類することとなります。
なお、GHSでは基準値以下の含有量でも有害な作用が予見される場合や、 逆に基準値以上含まれていても有害性が示されないことが判明している場合などでは、 これらを示す証拠に基づいて適切な判断をすることとされており、ロ)やハ)の場合には、 この点を考慮した判定が重要となります。(GHS 文書1.3.3.2、 3.2.3.3.5、3.2.3.3.6)
Q.2-10 急性毒性の判定で使用するATE(acute toxicity estimate)値と変換値 (conversion value)について教えてください。
A.
急性毒性は、通常実験動物(ラット)に対する致死作用によって評価されます。 急性毒性推定値(ATE: Acute Toxicity Estimate)と呼ばれる指標値で判定しますが、 これは動物を死亡させる投与量(経口投与や経皮投与の場合)や曝露濃度(吸入曝露の場合で4時間曝露を基準)の推定閾値です。 以前は、多数の実験動物を用いた試験によって、 投与や吸入曝露を受けた動物の半数が死亡する投与量(LD50)・曝露濃度(LC50)を厳密に推定していました。 LD50は体重1kg当たりの用量の点推定値、LC50は粉じん・ミスト・蒸気・ガスの気中濃度の点推定値となります。 現在は、少数の動物を用いてATEの範囲(GHS急性毒性区分1〜4のどれに相当するか)を求める方法が一般的となり、 OECDの定めたテストガイドラインにしたがって実施した試験で求まる範囲推定が直接GHS区分と対応するものとなります。
混合物についてのGHS急性毒性の分類では、成分物質のATE値から計算によって混合物のATEを求めることとなっていますが、 成分について範囲推定のデータしかない場合の計算方法を定める必要があります。 GHSでは、半数致死量(LD50)等の数値データがなく、ATE値についてGHS区分のみが判明している場合のため、 各GHS区分を代表する値として「変換値(conversion value)」が定められていますので (GHS文書 表3.1.2)、この変換値を当該区分に含まれる成分のATE値として、 加算式を用いた計算をすることができるようになっています。
Q.2-11 急性毒性の加算式について教えてください。
A.
健康影響の内、急性毒性の分類は実験動物(通常ラット)に対する致死量(経口投与の場合)や致死濃度 (吸入曝露の場合で4時間の曝露を基準)といった急性毒性の指標となる値(ATE値)を基準値と比較して分類区分を判定します。 混合物については加算式(additivityformula)を使用する方法が示されていますが、 これは含有成分のATE値から混合物のATE値を推定するための計算式です。 各成分のATE値を含有濃度で重み付けして調和平均値(逆数の算術平均値の逆数)を求めたもので、混合物のATE値が算出されます。 原則として1%以上含有される成分を対象に計算をします。 なお、含有量が1%以下であっても、 極めて毒性が高く明らかに混合物の急性毒性に影響をするような成分がある場合は計算に含めることが必要です。 形式的な判断よりも証拠に基づいた適切な有害性情報の記載をすることが求められます。
実際の加算式ですが、ATE値がわからない成分が含まれており、その合計が10%以下の時に使用する式(1)と、 10%を超える場合の式(2)が示されています。 式(1)を使用すると、ATE値が未知の成分については急性毒性がないものと見なして計算をすることとなります。 式(2)を使用すると、実はATE値が判明している部分についてのATE値が算出されますので、 この計算値で混合物全体の判定を行なうということは、 未知の部分も既知部分と同程度の急性毒性を持つとみなすこととなります。 いずれの場合も、表示にあたってはATE未知成分の合計濃度を記載することとされています。 (GHS文書3.1.3.6.1、3.1.3.6.2.3、4.1.3.5.2)
∑=niimixATECATE100 (1)
ATEi : 成分iの急性毒性推定値
ATEmix : 混合物Cの急性毒性推定値
n : 成分数(iは1からnまでの値をとる)
Ci : 成分iの濃度
ATEiCiATEnmix∑∑=>−) 10% if C(100unknown (2)
ATEi : 成分iの急性毒性推定値
ATEmix : 混合物の急性毒性推定値
n : 成分数(iは1からnまでの値をとる)
Ci : 成分iの濃度
Cunknown : 毒性が未知の物質の濃度
Q.2-12 水生環境有害性の場合の単純加算法・加成方式と毒性乗率「M値」について教えてください。
A.
水生環境有害性では、混合物について合計含有量による判定を行ないますが、 一段階上の(毒性の強い)区分に該当する成分は10倍に、二段階上の区分のものは100倍して、 計算をすることとなっています。 例えば、区分2に該当するかどうかを判断する場合、区分1相当の成分の濃度を10倍し、 それに区分2に相当する成分の濃度を加えて、その値が基準値25%を超えるかどうかで混合物の分類判定をすることとなっています。 さらに、区分1の成分については極めて毒性の高いものが存在する場合が想定されるので、 毒性強度に応じた毒性乗率「M値」で重み付け補正を行ない、合計含有量の計算をすることとなっています。 すなわち、急性毒性の指標値(LC50/ EC50/ErC50)が区分1の基準値より10分の1以下、100分の1以下、 1000分の1以下、...と一桁以上小さくなる(毒性が10倍、100倍、1000倍...と一桁以上強くなる)毎に、 10、100、1000、...と順次大きなM値が定められており、 該当する成分の含有濃度にM値を掛けた値を用いて合計値を計算します。 このように区分とM値によって重み付けをして計算した合計値と表に示された基準濃度の比較から、 混合物の区分を決定することとなっています。 なお、急性毒性の指標値(LC50/ EC50/ErC50)の区分・範囲が判明しているだけではく、実際の数値データがある成分については、 それらの成分から成る部分について上述した加算式を使用して急性毒性の指標値を計算し、 その結果を合計含有量による判定法に使用することとなっています。
Q.2-13 水生環境有害性の急性毒性加算式について教えてください。
A.
水生環境有害性の急性毒性でも式(3)に示した加算式を使用してもよいとなっています。 U-11の式(1)と同様ですが、急性毒性の指標値が判明している成分が対象となります。 水生環境影響では、基本的には合計含有量方式(単純加算法)が基本ですが、 加算式は急性毒性の指標値が判明している成分について部分的に適用し、 得られた結果を合計含有量方式(単純加算法)で利用することとなります。 有害性が未知の成分が存在する場合は、既知成分に基づいて分類することとされ、 未知成分が合計何%含まれるかを記載することとされています。
(3)
Ci : 成分iの濃度
L(E)C50i : 成分iのLC50またはEC50(mg/L)
n : 成分数(iは1からnまでの値をとる)
L(E)C50m : 混合物の中で試験データが存在している部分のL(E)C50
Q.2-14 単純加算法・加成方式について教えてください。
A.
これらはsummation methodの訳語で同じものを表します。 混合物の判定で、当該作用を示す成分の濃度の合計をGHS文書の表に示された基準値と比較して判定する合計含有量による方法です。 例えば、皮膚刺激性(区分2)に該当する成分がいくつか含まれている場合は、 それらの成分の濃度を合計した値を算出し、その値が10%以上となれば混合物を区分2に、 1%以上10%未満であれば区分3に、というように混合物を分類します。
ところで、皮膚刺激性を検討する場合は、皮膚腐食性(区分1)に該当する成分も希釈時には刺激性を示すと考えられますので、 刺激性(区分2)の判定では区分1の物質の濃度も重み付けをした上で考慮にいれます。 GHS文書に示された表3.2.3には、区分1の成分の合計濃度を10倍し、区分2の成分の合計濃度と足し合わせて、
合計の数字が10%以上と ∑Ci L ( E ) C 50m = ∑ Ci L ( E ) C 50i n
なれば混合物を区分2に、1%以上10%未満であれば区分3に、混合物を分類するよう記載されています。 単純加算法と訳されていますが、単純に濃度を合計するのではなく、 このように区分によって一定の重み付けをして判断することとなります。 眼に対する重篤な損傷性・刺激性についても同様の方式が採用されていますが、 眼への作用では皮膚腐食性を示す成分も考慮することとなっています。
Q.2-15 混合物について、MSDS作成の基準となる危険有害性を持つ成分の濃度 (カットオフ値⁄濃度限界)はどのように決められていますか
A.
混合物のMSDSでは、含有成分についての危険有害性情報を示せば良いのではなく、 混合物として危険有害性を評価・分類し、分類結果に応じたMSDSを作成する必要があります。 混合物として評価したデータがない場合には、それに含まれる成分の危険有害性を勘案して混合物としての評価を行います。 急性毒性については、すでに説明したように加算式で混合物の評価をします。 その他の有害性クラスについては、当該有害性を示す成分の濃度を各クラスの区分毎に示された基準値と比較して分類判定を行ない、 いずれかの区分に該当した場合はMSDSに記載することとなります。
GHS文書には、有害性クラス毎にSDS作成の基準となる濃度(カットオフ値)をまとめた下のような表が掲載されています。 一般に、該当する成分が表中に示された濃度以上含まれる場合は分類を検討することになりますが、 分類区分の判定・ラベル表示・MSDS記載内容の決定については、さらに検討すべき事項がありますので、 詳細はGHS文書の各有害性の項を参照してください。また、物理化学的な危険性についてはこのようなカットオフ値はありません。
乗算整数(の方法)
表 健康および環境の各有害性クラスに対するカットオフ値⁄濃度限界(GHS文書表1.5.1)
有害性クラス | カットオフ値⁄濃度限界 |
---|---|
急性毒性 | 1.0%以上 |
皮膚腐食性⁄刺激性 | 1.0%以上 |
眼に対する重篤な損傷⁄刺激性 | 1.0%以上 |
呼吸器または皮膚感作性 | 1.0%以上 |
変異原性:区分1 | 0.1%以上 |
変異原性:区分2 | 1.0%以上 |
発がん性 | 0.1%以上 |
生殖毒性 | 0.1%以上 |
特定標的臓器毒性(単回曝露) | 1.0%以上 |
特定標的臓器毒性(反復曝露) | 1.0%以上 |
水生環境有害性 | 1.0%以上 |
Q.2-16 皮膚腐食性 ⁄ 刺激性および眼に対する重篤な損傷性 ⁄ 眼刺激性において加成性が成立しない場合の混合物の分類について教えてください。
A.
皮膚腐食性/刺激性及び眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性を示す物質では、 通常該当する成分の合計濃度で判定する方法(単純加算法)を使用することとなっています。 当該作用を示す成分の濃度に応じて作用の強さが増すという「加成性」に基づく考え方です。 逆にみると、希釈割合に応じて作用が減弱すると考えていることになります。 ところが、物質によっては希釈に応じた作用の減弱が生じない場合が存在します。 このような加成性の理論(the theory of additivity)が成立しない成分を含む場合は、 該当する成分についてカットオフ値(濃度限界)による判定を行ない、 合計濃度で判定する方法(単純加算法)は用いないこととされています。 GHS文書では、「酸・塩基・無機塩・アルデヒド類・フェノール類・界面活性剤」等、 ある種の化学物質の分類でこのような配慮が必要とされ、強酸・強塩基、 その他加成性が成立しないものについて、腐食性では1%、 刺激性では3%という基準値が示されています。(GHS文書表3.2.4)
表3.2.4 加成方式が適用できない混合物の成分の濃度
これで混合物の分類が皮膚に有害性とされる
成分 | 濃度 | 混合物の分類:皮膚 |
---|---|---|
酸 pH≦2 | ≧1% | 区分1 |
塩基 pH≧11.5 | ≧1% | 区分1 |
その他の腐食性(区分1)成分で加算計算の対象にならないもの | ≧1% | 区分1 |
その他の刺激性(区分2/3)成分で加算計算の対象にならないもの、酸、塩基を含む | ≧3% | 区分2 |
Q.2-17 混合物の健康有害性分類の方法について具体的に説明してください。
A.
急性毒性を例に説明します。
例1: 毒性が未知の成分を含む未試験の混合物の場合(GHS文書3.1.3.6.2.3)
混合物Aは化学物質Pを60%、Rを25%、Sを15%含みます。 化学物質Pは経口急性毒性試験結果で点推定値があり、Rの経口急性毒性試験結果は範囲で示されています。 Sの経口急性毒性試験結果はありません。 この混合物の試験は行われておらず、つなぎの法則も適用できません。 混合物の急性毒性に関する分類と表示はどのようにすればよいでしょうか。
まず、混合物中の成分について考えます。2つの成分物質についてのデータはありますが、経口についてのものだけです。
化学物質P、R及びSについての分類と表示
P及びRは急性毒性を示しましたが、他の健康有害性及び環境有害性はありません。 急性毒性(経口)に関しては以下の表にまとめました。試験はラットでの単回ばく露によります。
成分 | 試験結果 | 変換係数 | GHS 区分 |
---|---|---|---|
P | LD 50 :900 mg/kg | NA | 区分 4 |
R | LD 50 範囲: 50-300 mg⁄kg | ATE = 100 mg⁄kg | 区分 3 |
(GHS文書 表3.1.1)
2物質の区分は以下のようになります。
物質 P:急性毒性(経口)区分4
物質 R:急性毒性(経口)区分3
混合物としての分類には必要ありませんが、物質P及び物質Rに対する表示を示すと以下のようになります。
(GHS文書 表3.1.3)
物質 P
注意喚起語:警告
シンボル:感嘆符
危険有害性情報:飲み込むと有害
物質 R
注意喚起語:危険
シンボル:どくろ
危険有害性情報:飲み込むと有毒
混合物の分類と表示
混合物としてのデータは無いので、分類及び表示は(3.1.3.6.2.3)の式及び(GHS文書 表3.1.2)の変換係数値により求めます。 計算は下記の式によります。
ATEiCiATEnmix∑∑=>−) 10% if C(100unknown
ここで、
ATEi : 物質P及びRの急性毒性推定値
ATEmix : 混合物の急性毒性推定値
Ci : 物質 P 及び Rの濃度
Cunknown : 毒性が未知の物質Sの濃度
です。
混合物の急性毒性推定値は以下のように求められます。
混合物の急性毒性推定値ATEmix 268 mg/kg により区分は3となります。
混合物は区分3なので、ラベルの表示要素は以下のようになります。(GHS文書 表3.1.3)
注意喚起語:危険
シンボル:どくろ
危険有害性情報:飲み込むと有害
これらに加え、ラベルには「この製品には有害性が未知の成分を15%含む」と記載しなければなりません。
例2: 混合物としてのデータがある場合(GHS文書3.1.3.4)
混合物Bは農薬で経口、経費及び吸入毒性試験がなされています。混合物Bはどのように分類され表示されるでしょうか。
急性毒性のデータを以下の表に示します。
試験方法 | 試験結果 | GHS 区分 |
---|---|---|
ラット、単回経口投与 | LD 50=40 mg/kg | 区分 2 |
ラット、単回1時間粉じん⁄ミストの吸入 | LC 50=3.0 mg/l ※ | 区分 3 |
経皮吸収 | LD 50=1800 mg/kg | 区分 4 |
※ 判定基準で示されている吸入時間は4時間なので、 本試験結果の1時間吸入試験結果から得られたLD50は4で割り判定します。(GHS文書 表3.1.1 注記(b))
混合物Bの急性毒性の経口が区分2、吸入が区分3、経皮が区分4なので、(GHS文書3.1.3)からラベル情報は以下のようになります。
注意喚起語: 危険
シンボル: どくろ
危険有害性情報: 飲み込むと生命に危険、吸入すると有毒、皮膚に付くと有害
注意:経皮の区分4による感嘆符及び注意喚起語「警告」は、経口の区分2がより重篤なため、 優先順位を考慮して記載されません。しかし全ての危険有害性情報は記載されます。
例 3: 未試験混合物の全ての成分についてデータがある場合(GHS文書3.1.3.6.1)
混合物Cは物質Xを60%、物質Yを30%、物質Zを10%含む洗浄剤です。成分X、Y、Z
経口急性毒性:
ATEmix = 268mg/kg 100-15 ATEmix= 60 900mg/kg + 25 100mg/kg
には急性毒性試験(経口)結果があります。混合物Cの試験結果は無く、つなぎの法則も適用できません。 混合物Cの分類と表示はどのようになるでしょうか。
混合物Cの成分について考えます。これら3つの全てについてデータはありますが、経口ばく露についてのみです。
物質X、Y、Zについての分類と表示
急性毒性に関する情報は以下のとおりです。
試験方法:ラット、単回経口ばく露
成分 | 試験結果 | GHS 区分 |
---|---|---|
X | LD50=400mg/kg | 区分 4 |
Y | LD50=200mg/kg | 区分 3 |
Z | LD50=1000mg/kg | 区分 4 |
混合物Cの分類には必要ありませんが、物質X、Y、Zのラベル要素を示すと以下のようになります。(GHS文書 表3.1.3)
物質 X 及び Z
注意喚起語: 警告
シンボル: 感嘆符
危険有害性情報: 飲み込むと有害
物質 Y
注意喚起語: 危険
シンボル: どくろ
危険有害性情報: 飲み込むと有害
混合物Cの分類と表示
混合物Cのデータは無く、つなぎの原則も適用できません。 そこで混合物Cの分類は(GHS文書3.1.3.6.1)の計算方法によります。計算式を以下に示します。
∑=niimixATECATE100
ここで
ATEi:物質X、Y、Zの急性毒性推定値
ATEmix:混合物Cの急性毒性推定値
Ci:混合物中の物質X、Y、Zの濃度
です。
混合物の急性毒性推定値は以下のように計算されます。
急性毒性(経口):
ATEmix = 323mg/kg +100 ATEmix60 400mg/kg 30 200mg/kg
混合物の急性毒性推定値ATEmix 323 mg/kg は区分 4です。
混合物は区分4なので、ラベル情報は以下のようになります。(GHS文書 表3.1.3)
注意喚起語: 警告
シンボル: 感嘆符
危険有害性情報: 飲み込むと有害
Q.2-18 つなぎの法則(Bridging principle)とは何ですか。(GHS文書3.1.3.5)
A.
つなぎの原則は混合物の分類を類似の混合物のデータから類推して分類する方法です。 これは類似の混合物の試験データが無ければ適用できません。
多くの先進国の特徴は何ですか?
例 4 : つなぎの原則の適用
- 希釈 (GHS文書3.1.3.5.2)
混合物Dは急性毒性(経皮)が区分2と区分3の成分を含み、混合物自身は急性毒性(経皮)区分3です。 混合物Dが急性毒性(経皮)区分4の成分で希釈された場合、新たな混合物の区分は3とすることができます。
注意喚起語: 危険
シンボル: どくろ
危険有害性情報: 皮膚に付くと有害 - 希釈 (GHS文書3.1.3.5.2)
試験結果により混合物Eは急性毒性(経口)値LD50 250 mg/kg を示し、 区分3に分類されました。混合物Eが同量の水で希釈された場合、 急性毒性推定値は500 mg/kgとなり、希釈された混合物は区分4に分類されます。
注意喚起語: 警告
シンボル: 感嘆符
危険有害性情報: 飲み込むと有害 - 毒性の高い混合物の濃縮 (GHS文書3.1.3.5.4)
混合物Fは成分Q(LD50 = 2 mg/kg、経口)と同量の水を含み、 したがって区分1と分類されます。 もし成分Qの濃度が50%から75%に引き上げられたとしても、 新たな混合物の区分は1としてよいでしょう。
注意喚起語: 危険
シンボル: どくろ
危険有害性情報: 飲み込むと生命に危険 - ひとつの毒性区分内での内挿(GHS文書3.1.3.5.5)
混合物G、H、Iは同じ急性毒性区分の成分(X、Y、Z)からなり、濃度は以下の表のように異なります。
混合物GとHが急性毒性(経口)で区分3に分類される場合、混合物Iも区分3に分類されます。% X % Y % Z % 水 混合物 G 5 10 10 75 混合物 H 1 5 24 70 混合物 I 3 7 15 75
注意喚起語: 危険
シンボル: どくろ
危険有害性情報: 飲み込むと有害 - 本質的に類似した混合物 (GHS文書3.1.3.5.6)
混合物Jは試験され、急性毒性(経口)が区分3と分類されています。 混合物Jは成分X(LD50 = 200 mg/kg、経口、区分3)40%と成分Y(LD50 = 700 mg/kg、経口、区分4)60%からなります。
混合物Kは成分R(LD50 = 250 mg/kg、経口、区分3)40%と成分Y60%からなります。
混合物Kは混合物Jと同じ分類(区分4)として良いでしょう。
注意喚起語: 警告
シンボル: 感嘆符
危険有害性情報: 飲み込むと有害
Q.2-19 物理化学的危険性の分類は、国連危険物輸送勧告(UNRTDG)とGHSは同じですか。
A.
UNRTDGとGHSの物理的危険性に関する判定基準は基本的に同じですが、使用する区分が異なる場合があります。 例えば火薬類で、GHSには「不安定爆発物」がありますが、UNRTDGにはありません。 これは輸送分野では不安定爆発物を輸送することはないからです。 急性毒性についていえば、GHSでは区分5まで規定されていますが、UNRTDGでは区分3までしかありません。
Q.2-20 健康有害性の急性毒性区分5の使い方について教えてください。
A.
GHS文書では、「区分5の判定基準は、急性毒性の有害性は比較的低いが、 ある状況下では高感受性集団に対して危険を及ぼすような物質を識別できるようにすることを目的としています。 急性毒性(経口または経皮)のLD50値が2000mg〜5000mg、また吸入で同程度のばく露量であると推定されている。」とされ、 さらに詳細な判定基準が示されています。 これは単にLD50値が2000mg〜5000mgであれば自動的に区分5を当てはめるというのではなく、 ヒトの経験や動物実験の結果を十二分に勘案して、 実際にヒトに対して急性毒性を示すかどうかを判断するよう求められています。 (GHS文書 表3.1.2 注記1)(GHS文書 表3.1.1 注記 (f))
Q.2-21 発がん性の分類はいろいろな機関で行われていますが、 これらとGHS分類の関係はどうなっていますか。
A.
機関等による発がん性にかかわる分類の相違は関係省庁連絡会議の「発がん性分類にかかる技術上の指針」に例示されています。 それぞれの機関等で分類上の定義が多少異なる場合もありますが、おおよそ下記の表のように対応していると考えられます。
表 GHS分類と他の機関における分類の対応表
GHS | IARC | 産衛学会 | ACGIH | EPA1999 | EU |
---|---|---|---|---|---|
1A | 1 | 1 | A1 | CaH | 1 |
1B | 2A | 2A | A2 | L | 2 |
2 | 2B | 2B | A3 | S | 3 |
3 | A4 | I | |||
4 | A5 | NL |
「発がん性分類にかかる技術上の指針」から抜粋
また、同じ物質にもかかわらず機関によって分類が異なるような時には、 最も信頼できると考えられるデータによって分類しているものを選ぶ必要があります。 判断が困難な時には専門家に相談したほうがよいでしょう。
Q.2-22 固体あるいは液体の急性毒性値(吸入)(LC50)が、 ppmあるいはmg⁄ℓで示されていますが、蒸気曝露なのか粉塵⁄ミスト曝露なのか明記されていません。 曝露状態を推察する方法を教えてください。
A.
対象物質の蒸気圧を次の式に挿入し、得られた飽和濃度を吸入曝露試験の濃度と比較することで、 蒸気曝露か粉塵/ミスト曝露かを推定することが可能です。
飽和濃度 [ppm] = 106 x 蒸気圧[kPa] / 101 [kPa]
例えば、液体のエチレンイミン(25℃の蒸気圧は28.4kPa)の飽和濃度(X)は、 280000 ppmと算出されます(X = 28.4/101 x 106 = 280000 ppm)。 吸入毒性試験は6 ppm、100 ppmおよび2200 ppmで実施されているため、すべて蒸気曝露と推定されます。 なお、この場合、ミストの混入しない気体での吸入試験であると考えられるので、 区分判定の基準値はGHS文書の表3.1.1.の注記(d)にしたがって、 区分1は100 ppm、 区分2は500 ppm、区分3は 2500 ppm、 区分4は 20000 ppm(2007年のGHS改訂第2版より、 区分4の範囲は2500 ppm超から20000 ppm以下に変更されました)を使用することとなります。
試験が飽和蒸気圧に近いところで実施されている場合はミストの混入が推定されますので、 そのような場合は、ppmをmg⁄ℓ換算して表本体記載の基準を用いて分類区分を判断する必要があります。 一方、飽和濃度よりも高い吸入試験濃度の場合は、ミスト曝露と推定されます。
Q.2-23 ラットにおいて分類区分の異なる複数の急性毒性データがある場合、 データの採否はどうすればいいですか。
A.
基本的には最も信頼性の高いデータを採用するのが適切です。 OECDガイドラインに基づき、GLP(優良試験所基準Good Laboratory Practice)で実施された試験は、一般に信頼性が高いと考えられています。 しかしながら、試験データ一覧などからは、どのような基準に従って実施された試験かを判断することは不可能です。 必要に応じ、データの原典にあたり、試験実施年、試験物質の純度、1群の試験動物数、試験濃度範囲などから判断することになります。
Q.2-24 皮膚腐食性/刺激性の判定基準では、4時間以内の適用に基づく事が記載されていますが、 適用時間ならびに試験結果の詳細が記載されていないことが多くあります。どのように判断すればいいでしょうか。
A.
評価文書には、多くの場合、定量的記述はなされていませんので、定性的記述に基づいて分類するしかありません。 定性的判定の例として、以下があげられます
試験結果表記 | 分類区分 |
---|---|
SevereあるいはCorrosive | 腐食性(区分1A−1C)。 ただし、Severe について、非可逆的病変が観察されない場合は刺激性(区分2)。 |
Moderate | 刺激性(区分2) |
Mild | 軽度刺激性(区分3) |
所見表記 | 分類区分 |
---|---|
Necrosis | 腐食性(区分1A−1C) |
Erythema, Inflammation, Discolorationの重複記述 | 刺激性(区分2)。単独でも明確な場合は刺激性(区分2) |
Q.2-25 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性の分類は、GHS文書では動物試験に基づく場合、 定量的評価基準に基づく事が記載されていますが、既存データの多くは、定性的記述がほとんどです。 どのように判断すればいいでしょうか。
A.
評価文書あるいは試験データベースの定性的記述に基づく分類例として、以下があげられます
試験結果表記 | 分類区分 |
---|---|
SevereあるいはCorrosive | 区分1(眼に対する不可逆的影響)。ただし、不可逆的病変が観察されない場合は区分2A。 |
Moderate | 区分2A(眼に対する刺激性作用) |
Mild | 区分2B(軽度の眼刺激性) |
Q.2-26 皮膚感作性において、 分類基準の1つに相当な数の人における皮膚接触による感作性誘発の証拠があげられていますが、「相当な数」とはどの程度でしょうか。
A.
ヒトにおける証拠の例としては、GHS文書3.4.2.2.2項にいくつか記載されているが、 明確にその数については述べられていません。 ヒトにおける「複数」の明確な証拠があることが、「相当な数」に相当するものと考えられます。
Q.2-27 皮膚感作性の分類で定量的な試験結果がない場合、どのように評価すればよいでしょうか。
A.
GHS文書では動物試験に基づく場合、アジュバントを用いる種類の試験方法(例えば、モルモットMaximisation 試験)が用いられる場合、動物の30%以上で反応があれば陽性であると考えられ、アジュバントを用いない試験方法(例えば、モルモットBuehler試験やマウスLLNA試験)では、動物の少なくとも15%以上で反応があれば陽性であると考えられるとしています。しかしそのような定量的記述がなされていない場合、評価書などでは感作動物(反応動物)の比率は必ずしも明示されていませんが、その評価書で「陽性」と判断していれば、比率が不明であっても陽性と考えていいと考えます。評価書に取り上げられておらず、文献の著者が「陽性」と判断している場合には、当該試験の陽性判定基準を調べ、GHS基準に合致しているか検討する必要があるでしょう。
Q.2-28 生殖細胞変異原性において、物質の分類基準のためにいくつかの試験法が記載されていますが(GHS文書3.5.2)、 それら以外に利用できる試験法を教えてください。
A.
分類に用いることのできる試験として適切なものは「適切に実施され、充分に有効性が確認された試験。 OECDテストガイドラインに従った試験が望ましい」とされています。これにある程度合致した追加の利用できる試験法としては以下のものがあります
- 生殖細胞を用いるin vivo 変異原性試験として「トランスジェニックマウス/ラットを用いる生殖細胞の遺伝子突然変異試験」
- 体細胞を用いるin vivo 変異原性試験として「ヒトの末梢リンパ球における染色体/小核分析(ヒトモニタリング解析)」、 「ほ乳類の末梢リンパ球を用いる染色体異常試験」、「トランスジェニックマウス/ラットを用いる体細胞の遺伝子突然変異試験」
- 生殖細胞を用いるin vivo 遺伝毒性試験として「ほ乳類生殖細胞DNA との(共有)結合試験や付加体形成試験」、 「ほ乳類生殖細胞におけるDNA 損傷試験(コメット試験、アルカリ溶出試験など)」
- 体細胞を用いるin vivo 遺伝毒性試験として「ほ乳類体細胞DNA との(共有)結合試験や付加体形成試験」、 「ほ乳類体細胞におけるDNA 損傷試験(コメット試験、アルカリ溶出試験など)」
- In vitro 変異原性試験として「ほ乳類培養細胞を用いる小核試験」
また、げっ歯類を用いる精子形態異常試験は、遺伝物質以外への影響に起因する場合があること、 ショウジョウバエを用いる各種試験(伴性劣性致死試験や翅毛スポット試験など)は、 昆虫とほ乳類では化学物質の体内動態や生殖発生過程などが異なることから、原則として分類には用いず、 サポートデータとするのが妥当と考えられます。
なお、労働安全衛生法における変異原性試験は、細菌を用いる復帰突然変異試験(いわゆるAmes試験)に基づいており、 陽性/陰性に関わらず、この結果だけからはGHS分類は困難です。細菌を用いる復帰突然変異試験は、 GHSにおいてin vitro変異原性試験の例の1つにあげられていますが(GHS文書3.5.2.9)、それらin vitro変異原性試験は、 その陽性結果において哺乳類試験の陽性結果のサポートとして使われます。 さらに、区分2の判定基準の注記において、「哺乳類を用いたin vitro変異原性試験で陽性となり、 さらに既知の生殖細胞変異原性物質と化学的構造活性相関を示す化学物質は、 区分2変異原性物質として分類されるとみなすべきである。」と記載されていますが、 ここで重みを置いているのは「哺乳類を用いた」in vitro変異原性試験であり、 細菌を用いる復帰突然変異試験は、これに該当しません。
Q.2-29 発がん性において、例えば、 IARCでは6価クロム化合物はGroup 1(ヒト発がん物質、GHSでは区分1Aに相当)と評価されていますが、 IARCにて評価対象として含まれていない6価クロム化合物の分類はどうしたらいいでしょう。
A.
当該物質が6価クロム化合物に該当するのであれば、IARCにてその物質自体の評価がなされていなくても、 区分1Aと分類するのが妥当と思われます。 ただし、金属および金属化合物の発がん性評価においては、 有機/無機金属、水溶性/不溶性、金属価数などにより評価が異なる場合もあるので、注意が必要です。
Q.2-30 生殖毒性における母体毒性の扱いに関する記述をわかりやすく説明してください。
A.
GHS文書には、「・・・もしそのような影響が単に他の毒性作用の非特異的な二次的影響として誘発されたにすぎないならば、化学物質をそのように分類すべきではない。」 (GHS文書 3.7.2.2.1)、「動物試験より得られたデータは、原則的には、 特異的な生殖毒性の明確な証拠を、その他の全身毒性を伴わない状況で示すべきである。」(GHS文書 3.7.2.3.4)としている一方、 「一般的に、母動物に毒性を示す用量において認められる発生毒性を機械的に無視してしまうべきでない。」 (GHS文書 3.7.2.3.4)、「母体に対する毒性があったとしても発生に対する影響が認められた場合、 その発生に対する作用がケースバイケースで母体に対する毒性の2次作用であると確実に実証されない限り、 発生毒性の証拠であると見なされる。」(GHS文書 3.7.2.4.2)など、相反していると思われるような記述があります。 これは「生殖毒性物質としての分類は、証拠の重みの総合的評価をよりどころとして行われる。」(GHS文書 3.7.2.3)ため、表現としては仕方のないところでしょう。 母体毒性や胚胎児への影響の重篤度に応じ、生殖毒性物質として分類するか否かはケースバイケースの判断になると思われます。 さらに、「母体に対する毒性との関連性によってのみ発生毒性を生じるような化学品については、 たとえ母体が介在する特異的メカニズムが示されているとしても、分類を機械的に否定すべきでない。 そうした場合には、区分1に分類するより区分2に分類する方がふさわしいと考えられることもある。」、 「例えば、胎児または子の体重のわずかな低下や骨化の遅延などが母体に対する毒性との関連性で観察される場合には、必ずしも分類を行う必要はない。」 (GHS文書 3.7.2.4.3)とあり、母体毒性が認められる場合には分類区分を1ランク下げるような場合もあるものと考えます。 判断が困難な時には専門家に相談したほうがよいでしょう。
Q.2-31 腹腔内投与で認められた生殖発生毒性への影響は、どのように判断すればいいか教えてください。
A.
動物試験は、ヒトでの曝露があり得る経路に関連した適切な投与経路(一般的には経口投与)により実施することが望ましく (GHS文書 3.7.2.5.5)、静脈注射または腹腔内注射などの投与経路を用いる試験では、 被験物質の生殖器官の曝露濃度が非現実的なほどに高濃度となってしまう場合、 または、例えば刺激性などにより生殖器官に局所的損傷をもたらす場合には、 細心の注意を払って解釈すべきであり、そうした試験だけでは通常分類の根拠とはならないとされています(GHS文書 3.7.2.5.6)。 つまり、腹腔内投与で認められた生殖発生毒性への影響は慎重に評価する必要があります。 当該物質について、適切に実施された経口投与による試験で影響が認められないような場合には、 たとえ腹腔内投与で影響がみられても分類の根拠とする必要はないものと考えます。 判断が困難な時には専門家に相談したほうがよいでしょう。
Q.2-32 特定標的臓器毒性(反復曝露)において、分類のためのガイダンス値が提示されていますが、 試験データには飼料中濃度の記載しかなく、動物への曝露用量がわかりません。どうすればいいか教えてください。
A.
動物試験において、報告書に飼料中濃度の記載しかない場合には、以下の換算表に従えば、 飼料中濃度から体重当りの用量を推定することができます。 この場合、用いた動物の体重を考慮してさらに換算する必要はありません。
動物 | 体重 (kg) | 1日当たりの摂餌量 (g) | 餌の種類 | 飼料中1 ppmあたりの用量(mg/kg体重/日) | 1 mg/kg体重 /日あたりの飼料中濃度(ppm) |
---|---|---|---|---|---|
マウス | 0.02 | 3 | 乾燥実験用飼料 | 0.15 | 7 |
ラット(若齢) | 0.1 | 10 | 〃 | 0.1 | 10 |
ラット(成熟) | 0.4 | 20 | 〃 | 0.05 | 20 |
モルモット | 0.75 | 30 | 〃 | 0.04 | 25 |
ウサギ | 2 | 60 | 〃 | 0.03 | 33 |
イヌ | 10 | 250 | 〃 | 0.025 | 40 |
ネコ | 2 | 100 | 含水半固形飼料 | 0.05 | 20 |
サル | 5 | 250 | 〃 | 0.05 | 20 |
イヌ | 10 | 750 | 〃 | 0.075 | 13 |
(例)ラットにおいて飼料中0.5%含有される物質は、ppm換算あるいは1日の体重当たりの用量換算ではどのようになりますか。
(回答)0.5%は、5000 ppmに相当します。表から、成熟ラットにおける飼料中1 ppmの含有は、0.05 mg/kg/日に対応しますので、 5000 ppmは250 mg/kg/日に相当します(5000 x 0.05)。
Q.2-33 混合物の分類ソフトがあると聞きましたが、入手方法を教えてください。
A.
2006年度経済産業省の委託で混合物用の分類ソフトが開発されています。 これは経済産業省に登録すれば、 化学物質の安全確保対策(経済産業省) から無料でダウンロードして使用できるようになっています。
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